ストック1

Open App
5/22/2025, 11:25:05 AM

「昨日と違う私を見て!」

遊びに来ると約束した友達が、私が玄関のドアを開けた途端にそんなことを言い出した
ポーズをキメてるけど、見たところ何も変わっていない

「ええと、髪切った?」

「切ってないよ」

「爪切った?」

「切ってないし、そんなところ気づかれたら気持ち悪いよ」

「だよね」

しかしどう見ても、昨日と違う私なんてことを言うほどの変化は感じられない
もうギブアップしよう

「で、なにが違うの?」

「昨日負けたあと、スピードの特訓を家族としまくったんだよ
今日の私は超強くなってるよ!」

わかるか
というか、そんなことをするほど悔しかったの?
よく友達とのトランプ遊びでそこまで悔しがれるな
成長する力が強そう

「じゃあ、手を洗って準備してて」

「はいはーい」

私はトランプを取り出し、テーブルの前に座る
友達も対面に座った
赤と黒に分けたトランプをシャッフルし、赤を私、黒を友達に台札としてセット、そこから四枚の場札を置いて準備完了
ルールは、お互い台札から引いた赤と黒のカード一枚を隣同士に置いて、ゲームスタート
数字が次か前の場札を、置いてあるカードへ素早く重ねていく
場札が四枚未満になったら、台札から四枚になるまでは補充可能
先に台札と場札が尽きたほうが勝ちだ

昨日までの友達は恐ろしく弱かった
そんなに強くない私が言うのだから間違いない
しかし、今日は気迫を感じた
昨日の特訓で仕上げてきたようだ
これは私が負けるかも

「では、お手並み拝見」

二人で構えを取る

「「せーのっ」」


…………
……

あの気迫はなんだったのだろう
一朝一夕で強くなれるほど、スピードは甘くなかったらしい
「昨日と違う私を見て!」
と自信を持って言いながらも、昨日と一片も違ってなかった友達は、私の手さばきについていけず、無惨にもボロ負けを喫した

「なんでだぁぁぁ!」

「強さが下の下だからでは?
実力の差だよ
ちなみに私は自分を下の上だと思ってる」

「そんなセリフ言ってみたい」

「自分が下の上って、そんなに言ってみたい?」

「……実力の差だよ、の方」

友達はその後
「一週間!一週間で仕上げてくるから!
その時は絶対に目にもの見せてやるから、待っててね!」
などと啖呵を切って帰っていった
一週間でどこまで強くなれるのかは知らないけど、今日と違う友達の実力を見られたらいいな、とは思う
その方が絶対に面白い
早く私を越えるがいい……なんてね
下の上が何言ってんだ

5/21/2025, 11:42:19 AM

着陸成功
機体のステルス状態を確認
では行こう
作戦名はBy Sunriseだそうだ

『どういう意味だ?』

地球の英語という言語で、日の出までに、という意味らしい
我々の地球での活動期限が日の出までだから、とのことだ

『わざわざ誘拐する相手の使う言語で作戦名を付けるなんて、なんだかなぁ』

私もどうかと思うが、あの人のセンスが悪いのはいつものことだ
ま、ここでは日本語が主流らしいがね
一番近い英語圏はどこだったか……いや、今はどうでもいいか

『しかし気が乗らないよな
よその星の別種の生物とはいえ、知的生命体で、俺たちとそう思考の変わらない存在を誘拐し、連れ帰ってそこでの生活を強制するんだろ?
さらにそれを観察するなんてさ』

非人道的だとの意見も多かったはずだが、いつのまにか承認されていたな
不透明さが気に食わんが、私たちは嫌だと言ってもやるしかない
生活がかかっているからな

『地球ってのを見てきたけど、ここより遥かに文明が高い俺たちの、思考レベルっていうのかな
なんというか、社会的な賢さが大して変わらないと知った時はショックだったぜ
地球で起きてる問題とあんま変わらねえ
俺たちは文明以外成長してねえなってさ』

そうだな
さらに研究のために誘拐なんていう野蛮行為に手を染めようとしている
とはいえ、それはそれ
仕事は仕事として取り組むよ、私は

『自分が情けなくなるが、こればっかりはな
おっ、ちょうどよさそうなやつがいるぞ
深夜に一人
他に人はいない』

最適な相手に出会うのが、思ったより早かったな
心苦しいが楽で助かる
行くぞ、3、2、1、ゴー!

「えっ!?」


『心の痛い、簡単な仕事だったな』

仕事はまだ終わっていない
この地球人に事情を説明しなければ
翻訳機能は、大丈夫そうだな
よし
突然すまない
我々は君たちの言うところの宇宙人……もしくは異星人といったところだ
君に危害を加えるつもりはないことを、先に言っておく

「え、う、宇宙、人?」

混乱するのも無理はない
我々は君たちに近い姿をしているが、本当に宇宙人なんだ
よく見れば人ではありえない瞳や耳、ところどころに鱗なんかもあるだろう?

「……」

『いきなりすまなかった
混乱している中、もうひとつ伝えないといけないんだがな、君は長い間俺たちの星で生活しなくちゃならない
ひどいことだが、上からの命令でさ、君を誘拐して、異星での生活を観察するって実験をやるんだ
できる限り不自由のないようにするが、地球には気軽に戻れない』

そんな気になれないだろうが、向こうで友人も作れるし、娯楽も揃ってはいる
……なんて言っても、今は頭に入らないかも知れないから、後で詳しく話すが、本当にすまないと思っている
それは本心だよ

「……あの、事情はなんとか飲み込めました
まだ、混乱してるけど
それで、こんなこと聞いていいのか、わからないですけど、地球に二度と帰らなくても大丈夫、ですか?」

うん?
二度と?
地球にいたくないのか?
別れたくない相手とか、君がいなくなって悲しむ人がいるんじゃないか?

「もうそんな人、いないです
家族は亡くしたし、周りの人は、私が邪魔みたいで、辛く当たってくるし……
もういっそ死んでやろうかと思ったけど、それも怖くて、それでなんとなくうろついてたんです」

そ、そうなのか

『……なぁ相棒、なんだか、思った展開と違うっつーか、可哀想だぜ
この子をなんとかしてやりたいよ俺は』

そうだな
だが、ちょうどいいんじゃないか?

『まぁ上も、被験体にする以上、楽しい毎日を報酬として提供するって言ってたもんな』

聞いてくれ
君が私たちの星で生活し続けたいというのなら、そうしてやれる
気のいい友人もできると思うし、こちらもそのサポートはする
地球では味わえなかった楽しみや、平穏な暮らしを約束するよ
もちろん、自由だって保証する
もう、苦しまなくて大丈夫だ

「ありがとうございます
……なんだか、ホッとしました」

『よほどつらかったんだな
だが、そんな生活とはもうおさらばだ
まだ着いてないけど、ようこそ我が母星へ
俺たちは君を歓迎するよ』

なにはともあれ、By Sunriseは成功だ
私としては、悪行をするはずだったが、人助けになって、少し安心しているよ

『誘拐には変わりないけどな』

「あの、By Sunriseって?」

作戦名だ
日の出までに誰かひとり誘拐する、というな
それに君が選ばれた

「日の出、ですか
別の星で、これから私の人生の日の出が見られそうですね」

『おっ、まさにその通りだ!』

これから存分に幸せになるといい
私たちも応援しているよ

「はい!」

5/20/2025, 11:08:57 AM

うあぁ、もおぉ……!
失恋したあぁ……!
しかも理由が、原因が、最悪すぎる……!
あんな失恋の仕方なら他の男に先越されたとかのほうが良かったよ!
今どき幸運の壺ってなんだよ!
壺買って幸せになれるかバカ野郎!
くそ、本当に好きだったのに!
結婚とか真剣に考えてたのに!
いや、結果を考えれば騙されなくてよかったんだけどさぁ!
なんなんだよぉ!
あぁ、悔しさと情けなさで涙が止まんないよ……
もう人間不信になりそうだよ俺
誰か俺の悲しみを何とかしてくれ!
気持ち切り替えたいけど、ほんと真剣だったんだよ
真剣だった分反動がデカいよ
フラれたなら、ちょっとすれば傷は癒えるだろうし、俺に悪い所があったんだなって反省できて、しょうがないと思えるんだよ
でも詐欺はさぁ、話のベクトルが違うじゃん
この悲しみを早くなんとかしたい……
俺の悲しみ、どうかあの空に溶けてくれ!
ちくしょぉぉぉぉ!

……あぁ、なんか本当に空に溶ける感じがする
だんだんと気分が楽になってきた
なんか、雲が出てきたな
雨だ
俺の悲しみを吸い取って、代わりに泣いてくれてるのかな
なんだか落ち着けたよ
こういう時は友達に電話でもして、話聞いてもらおう
それから、新たな恋でも探すよ

5/19/2025, 11:23:05 AM

どうしても……授業中じゃないとダメだった?

「はい……」

ダメだったかぁ
私もあまり口うるさいことは言いたくないんだけどね
これはちょっとどうかと思うよ

「すいません、我慢できなくて」

私も学生時代、そういうことをしてきた身だし、絶対悪いことだ、とは思ってないよ?
でも程度があると思うんだ

「あ、先生もやってたんですか」

まあね
だからって君の行為を許すかどうかは、別の話だけど
今回の件は、私のとはだいぶ違うし

「は、はい……」

学生なんて、育ち盛りだから、授業中にお腹すくのはわかるんだよ
そんな状態じゃあ集中力も続かないだろうから
だから少し早弁して、ちょっとだけ小腹を満たすとか、チョコレートをいくつか食べるくらいなら、見逃すスタンスなんだけどね、私は

「私も、どうだろうと、ちょっと迷ったんですけど……」

迷ったって言うけど、絶対小腹を満たそうとしてないよね
違ったら悪いんだけど、小腹がすいて仕方なく、とかじゃなくてノリノリでやっちゃったでしょ?

「本音を言うと、空腹感じゃなくて好奇心を抑えられませんでした」

だよね
小腹がすいてたら、あんなの選ばないもんね

「私、今日まで食べたことなくて、初めてだったので」

初めてだったかぁ
ワクワクしちゃったんだね
でも我慢しよう
授業中にやっちゃだめだって

「友達からもらって、嬉しくてつい……」

おいしかった?

「おいしかったです
あと、すごく楽しめました」

ああ、それはよかったね
でも、これからは授業中に「ねるねるねるね」は作っちゃダメだよ?

「はい、すいません……」

5/18/2025, 10:49:54 AM

「僕と結婚してください!」

目の前で、知り合いの少年が私にプロポーズしてきた
この少年は赤ちゃんの頃から見てきて、成長を見守っていたのだけど
まさか私を好きになっていたとは
確かに、近所のお姉さんに初恋をするというのは、ベタではある

「君はまだ子供だよ?
そういうのは早い
プロポーズは大人になるまでまって
私が応えるかどうか、わからないけど」

そう言うしかないね
大人になったらね、なんていい加減な約束をして、本気にしてしまったら可哀想だ
それに、私は人間ではない長命種
君は私と同じ時間は生きられない
結婚して、失ったあとが怖いから、私は人間と結ばれる気はないんだ
ごめんね

「僕、きっとお姉さんに愛されるような男になるよ!」

私がそんな事を考えてるとも知らずに、この子は、笑顔でそう言った

そして、何年かの歳月を経て、少年は青年へと成長する
彼はとても誠実で、優しい人になっていた
そして相変わらず、私のことを好きでいてくれて……
私も彼のことを好きになり始め、けど、寿命の差が、私に彼を受け入れることを拒ませる
本当は、私も彼と同じ気持ちで、結婚をしたいけれど
彼と一緒の時間が増えれば、失った時、きっと私はその先の長い人生を暗い気持ちで過ごさなければならなくなる

「まってて、僕があなたにとって相応しい男になるために、しばらく旅に出るよ
きっと、あなたを悲しませないような男になって、また会いに来るから」

そう言って、彼は私の前から姿を消した
寂しさはあったけど、どこかホッとした自分がいるのも、確かに感じる
私はなんとなく、彼とはもう会うことがない気がしていた

それから三十年
ふと、彼のことを思い出した
あのあと、私の予感の通り、彼は私の前に一度も顔を見せない
きっと、私への思いを断ち切って、どこかでいい人を見つけ、幸せに暮らしているんだ
そう思いたい
そんなことを考えていると、家の扉を叩く音が聞こえた
誰かが訪ねてきた
扉を開けて、目に映った顔を見て、私は絶句した
あの頃と変わらない姿で、彼が微笑んでいた

「ただいま」

「どうして……」

なぜ、若いままなのだろう?
彼の子供かとも思ったけど、目の前の彼は、ただいま、と言った
雰囲気も、記憶の中の彼のものだ

「詳しい話は後でするよ
今、言えることがあるとしたら、僕はあなたと同じ、長命種になれたってことだよ
そのために、今までかかってしまったけど……」

具体的なことはわからない
けど、彼は私のために三十年間、自分が長命種になれるように頑張っていたのだ
私の目から涙が溢れてきた

「本当に長く、またせてごめん
改めてお願いするよ
……僕と結婚してください」

「はい!」

もう、失うことを怖がる必要はない
私はとびきりの笑顔で、ようやく彼のプロポーズに応えることができた

Next