通りすがりの一般人

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2/7/2025, 10:24:52 AM

【知るのはもう俺だけ】


画面の前のお前、少し聞いていかないか?

これは、ガキの頃の話なんだけどさ...

そいつとは、近所の小さな公園で会って、暫く一緒に遊ぶうちに仲良くなったんだ。

そんなある日、いつもの公園に行くと俺とそいつしか居なかった。

何して遊ぶかそいつに聞こうと顔を向けたら、そいつは真剣な顔で俺に小さな声で耳打ちした。

『君だから教えるけど、実はね...裏山に秘密基地があるんだ。一緒に行かない?』ってな。

え?行ったかって?勿論行ったさ!当たり前だろ?

今思えば、山に空いた小さな穴に捨てられてたソファを置いただけの空間を秘密基地って言ってたんだ。

でも、当時は非日常感と俺らだけの秘密空間っていう要素が噛み合って気分は最高だった。

んで、今に戻るが...秘密基地を教えてくれたんだそいつは、昨日交通事故で死んだんだ。

28歳だった、早すぎるだろ?

20年前、俺とそいつしか知らなかった秘密基地の思い出は、今じゃ俺しか知らない。

...だぁれも知らない秘密の記憶さ。

え?言って良かったのかって?

まぁなんだ、思い出に浸りたかったんだよ...

もうあいつは居ないからさ。


お題「誰も知らない秘密」完

2/6/2025, 10:33:43 AM

【酒明け】


肌寒さで目が覚めた。

ソファの軋む音を聴きながら、昨日の記憶を必死に思い出す。

...そうだ、昨日は早めに仕事が終わったから、アホみたいに行きつけの飲み屋で飲んで...

マンションのカギを開けて...そのままソファに...

頭痛がし始めた頭を手で押さえつつ、ソファから下りて窓を明けると、まだ外は薄暗かった。

部屋の時計を見ると、午前4時過ぎを示していた。

いつも出勤する時間は午前7時手前。

欠伸しながら、お風呂にでも入ろうと踵を返した。

さぁて、今日も頑張ろう。


お題「静かな夜明け」完

2/5/2025, 10:39:31 AM

【おんなじ失敗】


失敗しちゃったぁ...。

1件目のスーパーで100円で買ったさつまいも...2件目のスーパーだと50円で売ってた。

やってしまった失敗に『あぁぁぁ』と心の中で嘆きながら、どこにも向けられない悲しさと共に家に帰った。

すると数分後に夫も帰ってきたので、この失敗を話そうと声を掛けようとした時、夫の手元に目が向いた。

夫の手にはさつまいもの入った袋が下げられていた。

夫に袋のさつまいもについて聞くと、聞いてくれと言わんばかりに話し始めた。

「聞いてくれぇ、さつまいもが100円で売ってあったから買ったんだよ!そしたら...」

「そしたら...他のお店では50円だった?」

と割り込んで聞いてみたら、なんで分かったのと目を丸くする夫に笑っちゃった!

あーぁ、私達って心と心が繋がってるんだなと思った。

数年経った今でも、この失敗は笑い話としてお互いの心に残ってる。


お題「heart to heart」完
※後々調べて分かったんですが、これを書いた当初、お題の意味を勘違いしてました...許して下さい...

2/5/2025, 9:20:44 AM

【結婚記念日に】


私の実家には、紙で作られたそこそこ大きめの花束が玄関の棚に置いてある。

濃い桃色のガーベラや赤色のバラ、白や黄色のラナンキュラスにマーガレット、淡い桃色のスイートピー等の花々。

加えて、枝分かれした色鮮やかな緑の葉っぱや白いカスミソウも本物そっくりに作って飾ってある。

去年、実家に帰った時に何気なく父に、玄関の花束はなんなのか聞いてみた。

父曰く、毎年結婚記念日に母と2人で花を1輪、紙で作って花束に足してるんだと。

何で紙なのか追加で聞いてみたら、照れ臭そうにこう返ってきた。

「紙だと枯れたりしないだろ?永遠に枯れないってのは俺達の愛を表してるんだよ」

だって、思わず微笑んじゃった。

去年数えたら、花束の花は全部で34本だった。

そして、今日は父と母の結婚記念日。

実家の玄関扉を開け、玄関に足を踏み入れると、遠くから父と母の仲良さそうな声が聞こえる。

玄関の棚に置いてある花束の花の数を数えたら、全部で35本になっていた。


お題「永遠の花束」完

2/3/2025, 10:44:52 AM

【私に、やさしくしないで。】


家に帰ってきて、リビングのテーブルに座る彼が珍しく酷く泣いてたの。

詳しく言ってくれなかったけど、どうやら今まで耐えれてたものが耐えられなくて溢れちゃったんだと...

細々と話してくれた彼を慰めようと声をかけたけど、

「今やさしくしてほしくないんだ。ごめん..ごめんね..」

と言われたから、私少し考えてから動いたの。

私もついさっき家に帰ってきたところだったから、寒いままのリビングにストーブをつけて。

彼の好きなお菓子とジュース、2人で買ったお気に入りのコップをテーブルに置いたわ。

ついでにお風呂も沸かして、テーブルに戻ったの。

「やさしくしてほしくないって言ったよ...?」

と私が席に着くなり、彼が言ったわ。

私はお菓子を開けて、お気に入りのコップに彼の好きなジュースを注いで、彼の前に置いて言ってやった。

「私に、やさしくしないで。もっと頼って」

ってね。



お題「やさしくしないで」完

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