夜明けの窓辺に座り頬杖をつく彼
古い旅行の記念に買った
英語表記のカメラで
小さい四角の中に収める
色は褪せているけど、
その光景は今も
まぶたの裏に染み付いて離れないので
かまわない
彼はただの少年なのに
金髪慧眼、小顔、長い睫毛
その美しさが彼の全てを汚した
また声をかけてくれまいかとただ、待つ
電車窓、一人、体揺られて
街の流れを見る。一瞬一瞬を美しいと思うのに
次の瞬間、見えるのは新しい景色と、変わらず続く電柱で、その景色はぼんやりとしか浮かばない
もう、思い出せない。
本当に、淡いもので、汚い物ばかり頭に残る
辛いですお母さん
縋るのは甘えかと、
一人リュックを腹に抱えて端の席に座る
今の便利さ、美しいと思えないのは私よ
不便だけど、昔の風呂敷持って、開いて
膝にかけて、タバコの匂いがずーっとする機関車、
一回乗ってみたいの。
便利便利って、みーんな薄い板に顔向けちゃって
私、つまんないわ。
アルプスの山道
ジャンヌちゃん
亡命してきて、私の家へ
祖国の事を思うその目は
私の知らない遠くの地を見つめている
ねえ、アナタが今いるのは、アルプスのおやまなの
アッチにはないものも沢山あるの
やっぱり、アナタの心はそっちにいるの
そこは、アナタの頭の中でしか帰れない
故郷なんだ
もうなくなっちゃうんだから
眠る起きるの繰り返し
いつまでこの想いは続いてゆくのだ
ガタガタ揺られている
海の上、果てしない線路を辿り
私の中の彼が破綻するまで
シルバーの電車で、白い電柱が続く
淡い水色の海の上をただ、ひたすら。
何駅目かな。忘れてしまったの
パンプスを何処かの駅に置いてきた
カバンも…かな
でも、取りに戻れないので
ただ、ずーっと、揺られるの
私の髪を撫でてほしいだけなの
知の探求。
どこでも、かしこでも
世界はつながる
水に反射したその顔も、真っ青な空も
そのために存在するのかと錯覚するほど
謎しかなくて、それとあとは全て美しい
私は目の前にいる人間のことすら
何一つわかっていないのだろう
ましてや、空だなんて。
おこがましいのだろう