#不完全な僕
僕は人の『色』が見える。
誰にも信じてもらえないけど。
人はみんな色を持ってる。
その人のイメージカラー?好きな色?
否、僕はその人の“才能”を表すものなんだと思う。
例えば、泳ぐのが得意な人は青。
誰とでも話せる人はオレンジ。
絶対音程を外さない人は緑…とかね。
小どもの頃、僕の色は空虚な白だった。
当時は何がなんだか分からなかったけど、
その頃はまだ才能なんて分からなかったんだ、きっと。
何年経っても、
鏡を見るたびに、僕の頭上には白が見えた。
…大丈夫。まだ才能に目覚めてないだけだ。
決して、みんなと違うなんてことはありえない。
そうやって、信じ続けた。
もう高校生だ。そろそろ何かあってもいいはずだ。
おそるおそる鏡を見る。
しかし、結果はいつもと変わらない、白。
僕は布団に潜って泣いた。
自分の価値の無さに。自分の非力さに。
そして周りから取り残される不安に押し潰されながら。
___気づけば暗い空間にいた。
(…ここはどこだ?なぜ僕はこんなところにいる?)
辺りを歩いてみた。
ここは黒一色だ。いや、黒にみえる別の何かか?
その闇に一人の少女が立っていた。
「ここはどこなんだ?教えてくれよ。」
彼女はピクリとも動かない。
それどころか彼女は僕の意識の中に入り込んできた。
脳内に、か弱い声が響く…
〈…やっと、来てくれたのね。〉
初めて彼女がこちらを向いた。
彼女には、目がなかった。
ない…というか、そこだけ消しゴムで消されたように
空間に同化していた。
僕には不思議なことに『恐怖』という感情はなかった。
「君は誰だ?」
〈私は…あなたの秘密を知る者よ。〉
「秘密?」
〈あなた、人の…色が見えるんでしょ〉
「……なぜ知っているんだ?」
〈…あなたの目には、私は何色に映ってるかしら?〉
まずは質問に答えてほしかったが、
とりあえず会話を続ける他なさそうだ。
「…君は、透明だよ。特に、目。」
〈正解。そう、私の色は透明。色なんてないのよ。〉
「だったら…僕にも色なんてないよ。」
〈あら、どうして?〉
「だって…」
僕は全てを話した。警戒心はもうなくなっていた。
これはおそらく夢だ、そう振り切ったからだ。
〈ふーん。白、ねぇ…〉
「ああ、白だ。周りはみんな、立派な色があるのに。」
〈…白は、立派な色じゃないの?〉
「…へ?」
〈だって、少なくとも透明な私よりはいいじゃない?
白だって立派な色でしょう?例えばそう…お米とか、
綿花とか、キャンバスとか…あっ、そうよ!
キャンバス!あなたはキャンバスなのよ!〉
「…キャンバス?」
〈ええ、キャンバスは最初は白いものでしょう?
だからあなたはこれからどんなものにもなれるの!
あとは、絵の具って、描くものがないと使えない
でしょう?だから、他の人たちがあなたによって輝けるってことじゃない?〉
「…えっと、つまり縁の下の力持ち的な?」
〈そうそう。だから、自信を持ちなさい。
色だけで人を判断するのは良くないけれど、
少なくともあなたは純粋でいい子だと思うわ。
…なんとなく、そんな気がするの。〉
「そっか…。」
〈…そろそろ夢から覚めなさい。
それから、頑張るのよ。〉
「…ああ、ありがとう。」
目の前には見慣れた天井があった。
やはり夢だったようだ。
だけど、これだけは夢じゃない。
白は、立派な『色』だ。
#雨に佇む
君と歩いた雨小道
ひとつの傘で歩きたくて
傘が壊れた嘘をつく
“風邪引いちゃうから”
その言葉に期待した
目を伏せながら、身を寄せる
“バイバイ”
傘と言葉を残して
君は遠くへ走ってく
しばらくの間
君の消えた白い闇を見ていた
もう君の姿なんてないのに
雨に佇む
君のくれた傘を
花に落ちる水滴を
ぼんやりと眺めながら
君が悪いわけじゃない
私が勝手に思ってしまっただけ
妄想は夢の中に留めておくべきだった
_でもさ、
小さな水たまり
一粒の雨が
そこに溶けていった
#向かい合わせ
死んだら楽になれるのかな…
生きてたらいいことあるのかな…
死んだら誰かが泣いてくれるかな…
生きたてたら誰かと笑い合えるのかな…
死にきれなかったら怒られるのかな…
生きていけば褒められるのかな…
ふわりと揺れたカーテンに
小さな人影が一つ
彼女は、
生と死の間にいた
手すりに手をかけて
呟く
ほら、また…
#海へ
「海になりたい。」
ある日彼はそう言った
普段から陽気な彼だ。
『なれるといいね。』
とりあえず、そう言っておいた。
冗談だと思った。
星が綺麗な夜に
彼は車を走らせた。
行き先を聞くと、彼は
「海にいく。」
とだけ言った。
いつにもなく真剣な顔をしていた。
あの時、
なぜ私は、いつもの様に質問攻めしなかったのだろう。
なぜ私は、素直に聞き入れてしまったのだろう。
海沿いの高台に着いた。
ここはいつもカップルで溢れかえっていたはずだが、
この夜中誰もいなかった。
だから好都合だった。
私はこの機会を利用して、彼にプロポーズしようと
思っていた。
彼が海を眺めている
その背中に声を掛けようとした。
大好きだって、結婚しようって。
でも、それよりも先に彼は言った。
「君は来ないでね。」と
私は理解が追いつかなかった。
彼はもしかして私が告白しようとしていることを
察したのだろうか。
だとしたらとんだ嫌われ者だ。
「あともうひとつ。」
突然彼が言った。
「今までずっと好きだった。」
『…え?』
嫌われたわけじゃなかった…
よかった…
ほんの一瞬、そう油断してしまったから。
「今までありがとう。」
そう言って、彼が手を振って、海に身を投げようとしていることにも気づけなかった
バシャン
荒波の中に、彼は消えた。
私は覗き込み必死に探した。
しかし、彼の姿はおろか、
残像さえもなかった。
まるで初めから
こんな“人間”は存在しなかったかのように。
海には泡だけが残っていた。
泣き崩れる私の脳裏に
彼の言葉が蘇った。
“海になりたい”
“君は来ないでね”
手のひらから溢れた一粒の涙が
静寂の海に溶けていった。
#裏返し
『君だけを愛してる』
そんな言葉
どうせ表の顔なんでしょ?
そんなあなたを裏返し。
するとどうだろう?
『他に愛する人ができた』
そんな言葉に変わったよ。
表裏つけるぐらいなら、
浮気なんてするなよ。
人の裏の顔を見る能力
嘘はすぐにわかる。
だけど、
裏返さないほうが
幸せなこともあるみたい。