20歳
成人式。
華やかな衣装に身を包み、笑い合う女子達。
昔は馬鹿やってたなぁと語らう男子達。
賑やかで明るい雰囲気となった会場。
全てが新鮮である。
そんな空気に酔いしれていると
かつての友の声が聞こえた。
子供の頃とは違い、
とてつもなく凛々しくなった
だが、どこか面影が残っている
そんな顔をしていた。
20歳になるとできることが増える。
その分、多くの責任を背負っていかなければならない。
この会場にいる全員が
その覚悟を持っているのかはわからない。
これからのことよりも
今の一瞬一瞬を楽しんでいるように見える。
「成人」
それは初めて自立した人に成るということ。
しかし、そこがゴールではない。
20年間生きてきて、やっと人になれたのだ。
もっともっと年月をかければ
私達はきっと“人”以上の存在になれる。
新年
新しい年になった。
いまいち実感が湧かない。
先に進むにつれて
不安しかない。
それでも進まなきゃいけない。
私に死ぬ勇気なんてないのだから。
良いお年を
今年も特にいいことはなかった。
けど、生きてただけで偉いのかな。
来年も適当に。
部屋の片隅で
暗く湿っぽい部屋の片隅で
俺たちは集まって言った。
「いやー、そろそろ来ると思うよ。」
「俺この場所が好きだったのになぁ…。」
「まぁ、いつか訪れる運命ですからね。」
今まで数々の仲間があの消滅機の犠牲となった。
そいつらの仇を取るために俺らは生き延びてきたのだ。
だが、それも今日でおしまいかもしれない。
あの馬鹿でかい消滅機がパワーアップしたのだ。
噂をしているとうぃーーーん!!!と大きな音をたてて
ヤツがやってきた。
「…やっぱり来やがったか…。」
「消滅機に見つかる前に人間の体に入り込んで
悪さがしたかったのですがね…。」
「もうここまで来たら諦めるしかないな。」
俺たちは立ち上がった。
正面にはあの消滅機が佇んでいる。
「俺らは今日まで頑張って生き延びたんだ!!
みんな、最後まで誇りを持っていくぞ!
……ほこりだけに…!!」
「…最後のセリフ、もう少しいいのなかったのか…?」
そう、俺らは「ほこり」だ。
潔癖症の人間にとってはゴキブリの次に嫌いな敵だ。
そして俺らの天敵はあの消滅機、
通称、「掃除機」だ。
どこの家にも必ず存在するほこりと、
それらを吸い取ることを使命としている掃除機の
熱い戦いが今、始まる…!
逆さま
目覚めたら、目の前に靴があった。
おかしい。こんな靴買った覚えがないぞ。
それになんだか頭がぼーっとする。
「…お目覚めかな?」
ドスの効いた低い声が聞こえた。こいつは男だ。
…誰だ?
こちらが声を出そうとしても
なぜか出てこない。
とても息苦しかった。
「混乱してるみたいだから説明してあげるよ。」
男はゆっくりと椅子に腰掛けた。
…それは俺の特注だ。勝手に座るな。
その瞬間、俺はあることに気づいた。
今までなぜ気づかなかったのだろうか?
宙吊りになっているのだ。
多分足はロープで吊るされているのだろう。
「ここはね、デスゲーム会場だよ。」
…デスゲーム?
なぜ俺がそんなことを?
だめだ。何も思い出せない。
「君はとてもお金に困っていたみたいだね。だから、
僕の提案にもすぐに乗ってくれたじゃないか。」
っ!思い出した。
俺は…ギャンブルにハマって…
生活が…苦しかったんだ。
「フフッ。その様子だと、思い出したようだね。」
「そうさ。君はこのデスゲームに成功したら大金がもらえるという企画を信じ込み、まんまと引っかかったんだよ!」
男の顔は優男のような顔からいっぺんし、
鬼の形相へと変わった。
あぁ…俺は
騙されたんだ。この男に…!
「いやぁ、契約を結んだときの君の顔は
今でも忘れられないねぇ…!」
「獲物を見つけた猫みたいに目ん玉見開いてさぁ!!」
ふはははは!!!!
映画の悪役のような笑い声が室内に響いた。
「さぁ、さぁ!!ここから本番だよ!」
そう言って男は俺の真下に木材を持ってきて
火をつけた。
「さぁて、ここから何時間死なずに耐えられるかな?」
密閉された室内。
このままだと、焼き焦げるか、中毒死するかの
どちらかだろう。
…俺が馬鹿だった。
こんなうまい話あるわけないのに。
真面目に働いていれば…
手も足も動かない。
意識も薄れてきた。
「この部屋の物は…あまり売れなさそうだね。」
男はあたりを物色し始めた。
俺が死んだ後に売りに行くのだろう。
せめて普通に倒れて死にたかった。
逆さまなんかで死にたく…ない…