逆さま
目覚めたら、目の前に靴があった。
おかしい。こんな靴買った覚えがないぞ。
それになんだか頭がぼーっとする。
「…お目覚めかな?」
ドスの効いた低い声が聞こえた。こいつは男だ。
…誰だ?
こちらが声を出そうとしても
なぜか出てこない。
とても息苦しかった。
「混乱してるみたいだから説明してあげるよ。」
男はゆっくりと椅子に腰掛けた。
…それは俺の特注だ。勝手に座るな。
その瞬間、俺はあることに気づいた。
今までなぜ気づかなかったのだろうか?
宙吊りになっているのだ。
多分足はロープで吊るされているのだろう。
「ここはね、デスゲーム会場だよ。」
…デスゲーム?
なぜ俺がそんなことを?
だめだ。何も思い出せない。
「君はとてもお金に困っていたみたいだね。だから、
僕の提案にもすぐに乗ってくれたじゃないか。」
っ!思い出した。
俺は…ギャンブルにハマって…
生活が…苦しかったんだ。
「フフッ。その様子だと、思い出したようだね。」
「そうさ。君はこのデスゲームに成功したら大金がもらえるという企画を信じ込み、まんまと引っかかったんだよ!」
男の顔は優男のような顔からいっぺんし、
鬼の形相へと変わった。
あぁ…俺は
騙されたんだ。この男に…!
「いやぁ、契約を結んだときの君の顔は
今でも忘れられないねぇ…!」
「獲物を見つけた猫みたいに目ん玉見開いてさぁ!!」
ふはははは!!!!
映画の悪役のような笑い声が室内に響いた。
「さぁ、さぁ!!ここから本番だよ!」
そう言って男は俺の真下に木材を持ってきて
火をつけた。
「さぁて、ここから何時間死なずに耐えられるかな?」
密閉された室内。
このままだと、焼き焦げるか、中毒死するかの
どちらかだろう。
…俺が馬鹿だった。
こんなうまい話あるわけないのに。
真面目に働いていれば…
手も足も動かない。
意識も薄れてきた。
「この部屋の物は…あまり売れなさそうだね。」
男はあたりを物色し始めた。
俺が死んだ後に売りに行くのだろう。
せめて普通に倒れて死にたかった。
逆さまなんかで死にたく…ない…
12/6/2023, 12:25:24 PM