やわらかな光
死にたいっていう気持ちでいっぱいになっても
超えることが不可能な壁に拒まれても
あなたがそばにいるだけで、乗り越えられる。
そんな運命の人に
私もいつか出会えるのかな
特別なことは何もいらない。
ただ私が闇に呑まれたときに優しく手を差し伸べて。
もしも、私があなたを見つけられなかったら
あなたのやわらかな光を私に届けてよ。
眩しいほどに光らなくても大丈夫。
実は結構 視力いいんだ。
絶対に見つけてみせるよ。あなたを
鋭い眼差し
お願い…
私を見ないでっ!
自分が勝手に見られていると思いこんでいるのか
実際に見られているのかは分からないけど…
多分みんな軽蔑した目で私を見ている。
私はいわゆるトランスジェンダーだ。
生まれた性は男性だが、現在は女性。
服もレディースを着ている。
子どもの頃から女性になりたかった。
両親はその気持ちをちゃんと理解してくれたし、
やっと夢が叶った…と思った。
…思っていたのに。
なんで、みんなから批判されて
無視されなきゃいけないの…?
この高校には中学生の頃の私を知っている人なんて
いないはずなのに
「もう嫌だ…」
泣きながら家に走った。
ベットに倒れ込む。
意味もなくSNSアプリを開いていた。
「え…?」
そこにはかつて友達だった奴のつぶやきがあった。
そして昔の私の写真と隠し撮りらしき今の写真。
『こいつ最近女になったんだぜ〜まじで草』
友人のページには何万もの人がコメントを返していた。
【ありえねーわ】
【男が女子トイレに入るってこと?】
バタッ
ー「そろそろご飯よ〜」
「……。」
一階からの母の言葉なんか耳に入ってこなかった。
もう何も感じない。
体も動かなかった。
心も体も氷のように冷たい。
あぁ、私の遺影には
どっち性別の私が使われるのかな…?
高く高く
夢は大きいほうがいいってよく言うけど
私は全然そう思わない。
テストでは全部80点以上とって
趣味の会う、ずっと仲良くできる友達を作って
みんなの役に立てる生き方をして
明るくして
優しくして
誰かを愛して……
…いつか叶うかもってこんな夢を見て
そのたびに後悔する。
話すのが苦手でずっと引きこもってるような私には
何一つだってできないんだよ。
幼稚園児が高校生の勉強をさせられるくらいに
難しい。
誰かを踏み台にして高く高く
登る。
そんなことはできない。
だから私はいつも低姿勢で
自分を傷つけて
死にたいっていう気持ちを必死に抑えて
低く低く生きる。
花畑
「……。」
…これで、よかったんだ。
これが私の望んできた死に方だから。
私は幼い頃から花が大好きだった。
両親によると、
花屋に行っては色とりどりの花々に目を輝かせ、
店員さんによく花の名前や花言葉を聞いていたそうだ。
「お父さん、お母さん、お花ってすごいね!」
「そうだね。お家でもお花を植えようか」
父と母はそう言ってくれた。
「やったぁ!ありがとう!!」
家の庭に初めて植えたのは、
『ラベンダー』だった。
花言葉は幸せ。
まさに私達にピッタリの花だった。
…それから約10年
ある日の夜に両親の言い争う声が聞こえた‥
「だから、俺は浮気なんてしてないと
言っているだろう!」
「そんなの信じられないわ!!昨日だってスーツに
香水の匂いをつけて帰ってきてたし、女の人と電話しているのだって聞いたのよ!」
「…そっそれは…。」
もう高校生だった私には大体わかった。
お父さん、浮気してたんだ…
それから父と母は離婚し、私は母のもとで
引き取られることになった。
「あなたにまで、心配をかけてごめんね…」
「大丈夫だよ、お母さん。
浮気する方が悪いんだから!」
「…そうね笑 」
こんな会話をしながらも
毎日充実した日々をおくっていた。
そして何十年かたって、
母も亡くなり、一人ぼっちになってしまった。
私の家族はもう花だけだった。
今日も水をあげながら、花を眺める。
「…私は死んでも一人ぼっちなのかな…?」
こんなことを思うようになっていた。
その後はお金も底をついてきて、
生活するのも限界だった。
そして私は、一番の親不孝をしてしまった。
……すずらんとトリカブトをすり潰し、
水で流し込んだ。
そしてすぐに庭に出て、花畑に座り込んだ。
どちらも猛毒だと言われる植物だ。
「どうせ死ぬなら、大好きな花に埋もれて死にたい。」
…ありがとう。みんな…
これが最後の言葉だった。
私の葬儀には誰か来るのかな?
もしも来てくれたら、
棺桶に沢山の花を入れて欲しい。
そうだな、花は…ラベンダーがいいな。
こんな死に方をして、天国に行けるとは
思っていない。
むしろ、地獄行きだろう。
でも構わない。
母に会えないのは悲しいけど。
地獄にはどんな花があるのかな?
こんなことを思ってしまうのだった。
空が泣く
今日も空が泣いている。
号泣よりも飲泣という感じだ。
ただひたすらに、静かに泣いている。
何がそんなに悲しいのさ
そんな言葉をかけたくなる。
…でも、ちょっと分かる気がする。
何もなくても泣きたくなるときは
誰にだってあるものだ。
もちろん私にも。
…しかし、このことは忘れないでほしい。
『流した涙は無駄ではない』ことを。
空の涙は
人の心までも悲しくさせることもある。
だが、この涙によって
「相合い傘」という言葉も生まれたのだ。
それに涙は草木にも染み渡り
生命の源ともなっている。
それと同じ。
私達が流した涙だって決して無駄ではない。
だから泣くことは悪いことではないのだ。
泣きたいときは泣いてもいい。
赤ん坊のころは親がうんざりするほどに
みんな泣いてきたのだから。
…辛いことがあるのなら、まずは悩む前に
思いきり泣いてみてほしい。
空と一緒に泣くのだ。