【勿忘草(わすれなぐさ)】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
2/6 PM 0:50
「そういえば、古結(こゆい)たちは
その青色が好きなのか?」
学食で昼飯を食べ終わって、
教室へ戻る道すがら、ふと聞いてみた。
古結の着ているスクールカーディガンの色。
柔らかで明るい青ではあるけれど、
冬に身に纏うには寒そうにも見える。
思い出してみると、宵の着けていた
スヌードと、真夜(よる)のマフラーも
こんな青色だった気がする。
「あ、この色? これはねぇ、勿忘草色に
近いのを選んだんだ~」
「勿忘草?」
「うん」
確か、英語では『forget-me-not』。
『私を忘れないで』という意味を持つ花。
「勿忘草の花言葉は、『私を忘れないで』
だけじゃなく、『真実の友情』って
いうのもあるんだよ」
すかさず真夜が解説する。
それを聞いて、花言葉の意味も含めて、
この色でお揃いなことが、3人にとって
重要なのだと分かった。
【ブランコ】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
2/4 AM 11:00
「お母さーん。ピザが食べたいです!」
「あるわよね。
ピザって、無性に食べたくなる時」
「お昼、ピザ注文してもいい?
それで、宵ちゃんと真夜(よる)くんも
呼んでピザパしていい?」
「好きにしなさい」
「やったぁ。……天明(てんめい)くんは
今日部活かなぁ。聞いてみよっと」
「……知らない子が出てきたわね」
2/4 PM 0:00
「こんにちは」
「お邪魔します」
「いらっしゃい、真夜くん、宵ちゃん。
いつもうちの暁の面倒をみてもらって
申し訳ないわね」
「面倒と思ったことはないです」
「……ありがとう。本当に2人には
感謝してるわ」
「宵ちゃーん、真夜くーん、おはよー。
ピザもついさっき届いた所なの。
熱い内に食べよ~」
「はいはい、今行くわ」
「……旭(あさひ)さん。
これ、うちの母から渡してって
頼まれたものです」
「『ブランコ』ね。
さすが夕月(ゆづき)、いいセンス」
「何もらったの? お母さん」
「ピザに合うスパークリングワインよ」
「へぇ~。じゃあ、お母さんも一緒に
乾杯しよ? わたしたちはコーラで!」
「(確かに親子でしゅわっとした飲み物が
好きだけど……。なんていうか
真夜くんたちの面倒見の良さは、
やっぱり夕月からの遺伝なのかしら)」
【旅路の果てに】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
1/31 PM 7:30
「ただいまー、暁」
「あれ? お帰りなさい、お母さん。
お仕事、一段落ついたの?」
「まぁなんとか目処は立ったわ」
「お疲れ様~。ご飯食べる?
それとも先にお風呂入る?」
「とりあえずビール」
「はーい、持ってくるね。
……お母さんの会社は、
いつ働き方改革実施されるの?」
「そんなものは、政治家の描く絵空事よ」
「わぁ、世知辛い」
「……あんたは相変わらずクイックセーブ&
ロードを駆使して進めるようなキャラ攻略
ゲームばかりやってるのねぇ。
たまにはRPGとかやりなさいよ。
世界中を巡る旅路の果てに辿り着く
感動ってものもあるのよ?」
「え~? でも、そういうゲームは
もう少しで終わっちゃいそう! って
思うと、最後の町で止まっちゃって、
そのままクリアしないで放置になりがち
なんだもん」
「そんな半端なとこで放置するなんて、
ゲームプログラマーの母に
ケンカ売ってるのかしら、この娘は……」
「売ってないよ~。尊敬してます。
……それで、ご飯どうするの?
何かリクエストある?」
「……オムライス」
「オムライスでいいの?」
「私の思い出のゲームの中では、
疲れて家に帰ると、パワフルで優しい
ママが、ゲーム開始前に自分が設定した
好きな食べ物を作ってくれたの」
「それがオムライス?」
「そう。いつだって私を勇気づけて、
元気をくれるママだった」
「へぇ~。ちなみにパパは?」
「パパは遠くにいて、
電話で話すしか出来なかったわね。
ぶっちゃけ、セーブポイントなんだけど。
冒険に必要なお金を振り込んでくれたり、
たまにおせっかいを焼いてきたり」
「……お父さんとほぼ一緒だね」
「……私も言っててちょっとそんな気がしたわ」
「ふふふ。じゃあ今夜は思い出のママの
代わりにわたしがオムライスを作るね!
真夜(よる)くんが作ってくれた
ハッシュドビーフもあるから、
ハッシュドビーフオムライスにしちゃおう」
【あなたに届けたい】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
1/31 AM 8:05
「ついこないだ新年になったと思ったら、
もう1月が終わっちゃうんだねぇ」
「そうね」
「来月はバレンタインがあるね!
真夜(よる)くんにあげるのは当然として、
今年は天明(てんめい)くんにも
チョコ渡すでしょ。どんなのがいいかな~」
「なんで決定事項になってるのよ……」
「えっ、まさかあげないつもりなの?」
「別にアタシたちがあげなくても、
槇(まき)くんは大量に貰いそうじゃない」
「あ~、確かに。机の上に大量に積まれてる
チョコの山、実際にちょっと見てみたい。
天明くんならあり得るかも」
「だから、いらなそうでしょ」
「宵ちゃん、それはそれ、これはこれって
やつだよ。せっかくのイベントなんだから
楽しまないと」
「――天明」
「ん? ――あぁ、真夜か。
宵と古結(こゆい)も。おはよう」
「おはよう」
「おはよー、天明くん」
「……おはよう」
「? なんか、宵、複雑な表情してないか?」
「あ、大丈夫。今ね、宵ちゃんと、天明くんに
どんなバレンタインお届けしようか? って
話をしてたの」
「ぶはっ。……ヤバ、ツボった……。
それ、本人に言うのか」
「あれ? ダメだった?」
「いや……、そういうことなら、
楽しみにしてる。よろしくな、2人とも」
「うん! 真夜くんも楽しみにしててね」
「わかった」
「(……ああもう……)」
【I LOVE...】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
1/29 PM 3:30
宵ちゃんとわたしのお気に入りの、
ケーキの美味しいカフェ。
祝勝会といえばここが定番で。
宵ちゃんと真夜(よる)くんはオペラ、
わたしはショートケーキ、
天明(てんめい)くんはチーズケーキを
注文した。
「残り時間2分切った所での逆転劇、
すごかったね~。惚れ直しちゃう」
「……逆転のシュートを決めたのは
アタシじゃなくてSGの
美羽(みわ)なんだけど」
「もー、謙遜しなくてもいいのに。
その直後の宵ちゃんの3Pシュートが
止め刺したようなものでしょ?」
「言い方……」
「いや、でも実際あれが決定打だったと
俺も思う。いいシュートだったし、
いい試合だったよ。勝てて良かったな、宵」
「…っ…」
天明くんに言われて、宵ちゃんが一瞬
言葉に詰まる。
思わず視線を逸らして「ありがとう」と
呟く頬がほんの少し紅い。
(照れてる照れてる。かわいいなぁ)
宵ちゃんの可愛さが、天明くんにもっと
伝わればいいなと思いながら眺めていると、
お店のBGM代わりの有線放送から
知っている歌が聴こえてきた。
「あ、この歌好き。
特に、イレ~ギュラ~♪ の部分が
気持ち良くて」
甘いケーキと甘いラヴソング。
なんだかとても贅沢で幸せな気分になる。
「タイトルが『I LOVE...』で
寸止め感あるからかなぁ。
だから余計に《イレギュラー》の
解放感がとんでもないっていうか。
そこだけ何回もリピートしたく
なっちゃうんだよね」
「変な聞き方」
「え~、そう? だって、それまでの
自分の世界が変わっちゃうほど、
特別で大切な人が現れたことを
《イレギュラー》って言葉で表現するの
ステキって思うけど」
「ロマンチストね」
「そこは女子力って言ってよ、宵ちゃん」
わたしにツッコミを入れている内に
宵ちゃんが平静さを取り戻す。
チョコレートにコーヒー風味の
ほろ苦い大人びたケーキが好きな
宵ちゃんだけど、最近はわたしより
よっぽど宵ちゃんの方が乙女だと思う。
それはきっと、天明くんが宵ちゃんに
とっての《イレギュラー》な人だから。
今はまだ、戸惑っているだけ。でも。
その内、恋やLOVEになるかもしれない。