南葉ろく

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10/1/2024, 12:01:54 AM

 日々、同じことの繰り返しだ。朝。起きる。顔を洗い、時間があれば朝食を摂る。そして、仕事へ。
 何年繰り返しただろう。一年前と今と。何かが変わったのか、それとも変わらないのか、そんなことすら分かりもしない。
 一日一日に意味を見出せなくなったのはいつからだろう。子どもの頃は、毎日が輝いていたのに。
 疲れた体を引き摺って、コンビニに足を向ける。新発売のシールが貼られたスイーツを手に取り、会計を済ます。疲れた自分への、ちょっとしたご褒美。
 日々、同じことの繰り返しだ。けれど。そんな日々のなかで、ささやかな贅沢を嬉しく感じるのも、まあ、ある種の幸福ではあるのだろう。
 明日も変わり映えのしない一日がきっと待っている。何か良いことがありますように。そんなことを考えながら、瞼を下ろした。



テーマ「きっと明日も」

9/30/2024, 6:44:42 AM

 
 君と一緒に過ごした部屋。二人掛けのソファに、揃いで買った色違いのマグ。洗面台に行けば、二つ並んだ歯ブラシ。どこを見たって、君がいた証がそこらかしこに点在している。
 こんなにも君の気配が色濃くあるのに。君の姿はどこにもない。君だけがいない。
 今日も、この部屋で僕は一人。君のいない部屋で、煩い静寂に耳を塞ぎながら生きている。





テーマ「静寂に包まれた部屋」

9/29/2024, 2:06:18 AM

 笑っていてほしいと願うのはぼくのエゴだ。
 本当に、勝手な話だ。願いながら、濡れたグチャグチャの笑顔しか浮かべられないのはぼくのほう。自分にできもしないことを、きみに願っている。
 ごめんね、自分勝手で。ぼくの知らないどこかで、それでも幸せでいてほしいと願っているんだ。

 どうか、どうか。きみよ。幸せでいて。いつか再び出会う君が、笑顔でありますように。



テーマ「別れ際に」

9/28/2024, 3:24:43 AM

 気になっている人に、デートに誘われた。喜び勇んで服を選び、化粧を施し、自宅を出たのが10分前。そして今。
『ごめん。親戚に不幸があったみたいで、行けなくなった。ギリギリの連絡になって本当にごめん』
 スマホの通知音とともに来たメッセージが、これ。
 約束の時間までは、まだ30分以上あるし、事情が事情だ。責めることはできないし、そもそも彼は何も悪くはない。お悔やみ申し上げます、気にしないでねのメッセージだけ送って、小さく溜め息。がっかりするのも、この徒労感も、勝手に己が感じているだけ。けれども、どうにもやるせない。だって、10分前まではあんなに晴れやかな気持ちでいたのに。あーあ。心のなかで盛大に投げやりな声を上げるのと、空から大粒の水が降り注ぐのは、ほぼ同時だった。
 急に空が陰りだしたな、とは思っていたけれど。空まで心にリンクしなくても、と思わなくもない。気合の入ったメイクも、服も、瞬く間に通りすがりの大雨が台無しにしていく。まあそもそも、ぜんぶ必要は無くなってしまったわけだけど。
 ここまで何もかも空回りだと、一周回って面白い。はは、と乾いた笑いまで出てきてしまう。こんな状態で出かけたって仕方ない。来た道を戻ろうと踵を返した。すると、今度は突然眩しい光が視界を遮った。……晴れている。なんだか逆に悔しい気持ちになってくる。空を睨みつけるように見上げていると、スマホがブブ、と小さく振動した。液晶に目を向けると、そこには彼からのメッセージの通知。
『埋め合わせは必ずするから。最近できたカフェ、多分君の好みだと思う。次の休み、予定が大丈夫だったら行かない?』
 分かりやすく心にかかった雲がスゥっと晴れてゆくのを感じた。我ながら、現金すぎる。

 やっぱり今日の空は私の心の写し鏡だな、と一人納得しながら再度自宅へ足を進めた。
 心は快晴になったけれど、濡れた地面は急には乾かないので。


テーマ「通り雨」

9/26/2024, 12:02:05 PM

 家から程近い場所に、楓の木が植えられている。形が可愛いから、と葉を押し花にしたのは二ヶ月ほど前のこと。押し花は栞として使っている。読みかけの本をパラリと開くと現れる小さな手のような形の楓の葉に心が癒やされるので、気に入っている。
 押し花として手元に残った楓の葉っぱは、艶々の緑色だ。紅色のイメージが強いけれど、瑞々しい緑もこの葉にはよく似合う。そういえば、近頃はあの楓の木に会っていない。気付くと、なんだか会いたい、だなんて思ってしまった。植物相手におかしな話だ。まあでも、せっかく思い立ったのだし。時刻は16時。まだ、出歩いても問題はないだろう。そっとソファから腰を上げて、カーディガンを羽織って外に出た。
 そうして久しぶりに会った楓の木は、すっかり赤々と色づいていた。こうして見てみると、やっぱり紅葉は綺麗だなぁ、なんて。どうにも優柔不断なことを思ってしまう。もちろん緑も好きだけれど、紅も綺麗なんだから、仕方がない。しかしみんな見事に秋のコーディネートを取り入れて、お洒落さんになってしまったものだ。我が家の楓ちゃんは人間のエゴによって、緑の衣しか着れなくなってしまったというのに。そう思うと、あの栞がより一層愛おしく思えてくるのだから、まったく救いがない。
 まあそんなものだ、人間なんて。なんて。都合の良いことを考えながら、帰路についた。浮気はここまでにしておこう。我が家に帰れば、衣替えに失敗した秋に、出会えるのだし。




テーマ「秋🍁」

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