南葉ろく

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 家から程近い場所に、楓の木が植えられている。形が可愛いから、と葉を押し花にしたのは二ヶ月ほど前のこと。押し花は栞として使っている。読みかけの本をパラリと開くと現れる小さな手のような形の楓の葉に心が癒やされるので、気に入っている。
 押し花として手元に残った楓の葉っぱは、艶々の緑色だ。紅色のイメージが強いけれど、瑞々しい緑もこの葉にはよく似合う。そういえば、近頃はあの楓の木に会っていない。気付くと、なんだか会いたい、だなんて思ってしまった。植物相手におかしな話だ。まあでも、せっかく思い立ったのだし。時刻は16時。まだ、出歩いても問題はないだろう。そっとソファから腰を上げて、カーディガンを羽織って外に出た。
 そうして久しぶりに会った楓の木は、すっかり赤々と色づいていた。こうして見てみると、やっぱり紅葉は綺麗だなぁ、なんて。どうにも優柔不断なことを思ってしまう。もちろん緑も好きだけれど、紅も綺麗なんだから、仕方がない。しかしみんな見事に秋のコーディネートを取り入れて、お洒落さんになってしまったものだ。我が家の楓ちゃんは人間のエゴによって、緑の衣しか着れなくなってしまったというのに。そう思うと、あの栞がより一層愛おしく思えてくるのだから、まったく救いがない。
 まあそんなものだ、人間なんて。なんて。都合の良いことを考えながら、帰路についた。浮気はここまでにしておこう。我が家に帰れば、衣替えに失敗した秋に、出会えるのだし。




テーマ「秋🍁」

9/26/2024, 12:02:05 PM