あかるあかり

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2/24/2025, 11:26:11 AM

『一輪の花』

 とあるひとり暮らしの者が、道端の花の可憐な佇まいに惹かれ、手折って部屋に飾った。エアコンの稼働する締め切った部屋で、花は冷風にもはかなげに揺れていた。
 エアコンの冷気を逃すまいと換気は一切しない部屋。蟻の一匹も迷い込まない部屋。万一にも虫が現れたら速攻で駆除される。この部屋で、花は部屋の主とふたりきり。少なくとも部屋の主の意識のなかでなら、花と主はふたりきりだ。

 だが翌日のこと。
 花をいけた硝子の花瓶の底に、異物を主は見つけた。黄色みがかった球形。見る限り硬質のものではない。弾力を感じる球体はひとつきりではなく、ざっと十近くは数えられそうだ。

 即座に主は花瓶ごと花を持ち出した。
 夏の陽にじりじり灼かれるアスファルトに、主は花と水と球体を撒いた。そこに躊躇はなかった。
 昨日まで姿のなかった、正体不明の卵状のものは、まるで花の不貞の証拠のようだった。追い払われた花は卵状のものと共に打ち捨てられた。

 卵と思わしきものが卵である確証は何もない。
 主は確かめる必要を感じなかった。その正体が知りたいわけではない。主は可憐な花を生活スペースに招き入れただけだ。招き入れたのはただ花一輪だけ。他のものは何であれ不快だった。

 主は一顧だにせず部屋に戻る。
 花と、正体知らざれる球体は、アスファルトの上で干涸らびるのをただ待つだけだった。

2/23/2025, 12:11:08 PM

『魔法』

 自分を大切になさい。
 あなたの幸せを第一に求めなさい。
 それは、あなたが幸せになるために必要なひとびとを、環境を、学びを――あなたが幸せになる条件のひとつひとつを、大切にすることにつながるから。

2/22/2025, 11:20:59 AM

『君と見た虹』

 それは虹。
 これから君がわたる虹。
 私はわたれない。少なくともいまは。

 いつか必ず私も行くから、そのときは忘れず迎えにきてほしい。君は私の、可愛い末の妹だった。
 これまでもこれからも、私を君の姉でありつづけさせてほしい。

 何も云わずに君は丸まった尾を幾度も振った。
 ぴんと立った凛々しい耳が私の声を聴いていた。
 そこにない、眼に見えない、虹の橋を、そして君はわたっていった。

 柴の姫。

 迎えにきてよ、必ずだよ。
 忘れないで忘れないから。

2/21/2025, 10:10:24 AM

『夜空を駆ける』

 夜の空を駆けるものは何もない。
 月はゆるりと半球を巡る。オリオンも静かに夜をわたる。オリオンの連れた猟犬すら音一つ落とさない。彼らを追う夏の蠍も気配なく。

 誰も夜天を荒らすことは許されていない。

 夜は誰にも侵されない。

2/20/2025, 11:16:27 AM

『ひそかな想い』

 口に出さない。
 知られることが恥ずかしいか。
 想い実らぬのが怖いのか。
 そうではない。そうではなくて。

 単純に、口にすればその気持ちが現実となるからだ。見まいとしていたこの想いを、直視せねばならないからだ。

 見なければ、気づかなければ、知らない顔をできるのに。
 認めてしまえばこの奇異な感情が恋という名を得てしまう。

 そんな気持ちで后は今日もしもべに眼差しを投げない。決して。

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