お題『空白』
何れ、向き合わないといけないことは分かっていた。
ただ、アイツから打ち明けてくれはしないかと期待をしていた。
しかし、今となってはそれが間違いだったと思い知る。
・・・・・いや、そもそもアイツが自分から言う事は無いとわかっていたはずだ。
アイツは悩んでる事、大変な事を『大丈夫』と言って言わないのは、出会った頃から変わらないのだ。
それでも、同じ職場になってからは多少なりとも、アイツから言う様になったと思っていたのだが・・・・・
「あんっの、馬鹿野郎・・・・・!」
矢張り、アイツの考えている事はよく分からない。
『何故、「ならない」と言ってた刑事になったのか』
『何故、相棒を俺に指定したのか』
『何故、普段は一人で居るのか』
『何故、危険な事ばかりしているのか』
『何故、ヤバい時に限って何も言わないのか』
頭が悪い訳ではないのは長い付き合いから知っている。
考えてる事が割と顔に出てる時もある事も。
なのに、肝心な時に限ってアイツは《何も言わない》のだ。
どうしようも無く、
アイツを知らない時期の【空白】と
こうして隠される【空白】に
今回も、忙しい所にさらに忙しくなる俺は、振り回されるのだ。
[それでも、気付いて助けに行くのは刑事である以前に、『腐れ縁で大事な友人の一人なんだ』と言う事を、急ぎ駆け出した彼は、《アイツ》に言っていない。
彼もまた、《アイツ》との間にある気付いてない【空白】があると言う事に何時、気付くのやら・・・・・]
By 腐れ縁の刑事と傍観している何者かより
お題『台風が過ぎ去って』
9月の訪れと共に台風が現れ、
10月の終わりと共に台風が過ぎ去る様に、
2ヶ月足らず居たアイツは、台風が残した被害の様に、
強烈なインパクトだけを残して、
また、台風の様に忽然と姿を消した。
不思議な奴だった。
トラブルが起きて周りが荒れててもソイツだけはよく笑って
「なんとかなるさ〜」
とか言いつつ、周りを振り回してあっと言う間に、本当に解決して何とかしてしまった。
そんな事もあって、一躍、台風の目の様に中心だったのだ。
だから、忽然と姿を消した事に皆動揺した。
事件に遭ったのか、とか嫌な考えもしたが
皆、動揺しながら一様に首を傾げるモノだから、
俺はきっと、アイツは『台風の化身』だったのではないかと思った。
だから、何時かまた、
否、今も何処かで、あの時の様に台風の様に現れては、
今の様に、台風が過ぎ去る様に消えるのかもしれない。
と、今、台風が過ぎ去った教室の様子を見てそう思うのであった。
By ある転校生が通った中学校の生徒より
お題「ひとりきり」
二人でいるか、一人でいるか、何方が良いかと改めて聞かれると、とても悩ましい。
何せ、一人でいるのは当たり前に寂しい。
それなら二人の方がイイ。
けれども、二人から一人になった時、寂しさが強いのは二人の方だ。
だから、二人か一人なら、一人を選びたくなる。
最初からひとりきりなら、失った存在の大きさを知らなくて済むのだから。
だから、今日もひとりきりでいようとする。
お題『Red,Green,Blue』
赤、緑、青・・・・・これらは【色の三原色】と呼ばれる物だ。
なので、昔は『基本的にこの色が見えてれば問題は無い』と私自身は思っていた。
そもそも周りの人間やら景色なんて、モノクロ程度の差にしか感じない私には無関心な事でもあったが。
「?赤じゃなくて、コレは茜色じゃないのか?」
「・・・・・まあ、そうとも言いますね」
「んで、コレが水色っぽいけど空色だろ?で、こっちが天色で・・・・・この色は翡翠色だ」
「・・・・・よくそこまで色分けしますね?」
はるか昔、出会った頃の話。
ある一枚の絵の説明を、教科書にあった絵を見せて説明していた所、彼はそう言って本来ならそこまでしなくてもイイ色分けをし始めた。
「?だって全然別の色に見えるもんよ、別の色なら分けるだろ?」
と彼は奇妙な顔をしつつ言った。
どうやら、彼の目には様々な色に分かれて見えるらしい。
所謂【色彩感覚が鋭い】人物なのは、先程の色の指摘でよく分かった。
「でも、普通なら赤、緑、青程度で伝わりますよ?」
「ンンン、そりゃそうかもしれねーけどさ・・・・・」
と、悩ましそうに彼は考え始める。
「なんて言うかな、やっぱり正確に伝えたいし、その方がわかりやすいだろ?」
「・・・・・そう言う物ですかね?」
私は少し首を傾げつつ言う。
「うんうん、例えば・・・・・!あ、夕焼け。夕焼けはさ、別にオレンジ一色じゃないだろ?赤からオレンジ、黄色にグラデーションだっけ?そう言うのになって・・・・・で、今度は赤紫から紫、青紫に変わってくじゃん?」
と、徐々に夕日が沈み出す色合いになった空を見上げ、指さしつつ彼は言う。
「それで、あの青紫だけど、群青色にも見えるあの空がお前の名前じゃん?その時に、『夕焼けから夜に変わる色』って言っても、皆よくわかんないだろ?それじゃあ説明つかないからさ、細かく分かれてる色ならそれを説明できた方がイイって。その色の良さも伝わるからさ」
と、笑顔で彼は言った。
「!・・・・・なるほど」
思わず、私は納得してしまった。
「にしても、勿体ないよなぁ・・・・・こんなにも世界は色んな色に見えるのに、大体7色だったり12色、多くて50色位の色鉛筆しかなくてさぁ」
「フフっ・・・・・まず、使いこなす人の方が少ないですよ」
「あー、かもしんない・・・・・」
「でも、君ならとても綺麗な絵が出来そうですね」
「!なら、今度絵を描こうぜ。何描くかはその時次第で」
と、楽しそうに君はそう言った。
それからと言うモノ、私の世界や見る景色には、人と関わる事が増えるのに比例して、いつの間にか黒白(モノクロ)以外に色が付くようになった。
「・・・・・やっぱり、色の三原色って、大事なんですねぇ」
と、昔を思い出してしみじみと言う。
「?何か言ったか?」
と、彼と付き合いの長い友人達が私を一斉に見る。
「いえ、何でも」
そう言って、私は今日も色鮮やかなこの世界を生きている。
By 人間嫌いの喫茶店のマスターの昔話より
お題『仲間になれなくて』
気付けば、一人ぼっちと言う事は割とある。
新学期の友達作りしかり、
グループワークのグループ分けしかり、
修学旅行とかのグループ分けしかり、
・・・・・まあ、新学期以外は余った人間同士で無理矢理グループと言う仲間の枠に入るのだが、コレが割と(短い期間言えども、だが)仲間意識を持つと言うらしい。
が、残念ながらそんな時でも私がその余り同士の彼らに対して仲間意識を持つ事は無い。
例え、同じ好きな物や、得意な物があったとしても「それが何だ?」程度にしか感じられないと言うのもあった。
そもそも、目立たず悪さをしなければほって置かれても問題は無いし、それが不便と感じた事が無いから「仲間」と言う物に魅力すら感じないので、私自身、別にどうでも良かった。
今こうして振り返ると、その自分から疎外して行く姿勢が一番の問題なのだろうが。
そう言う私自身の問題もあり、私にとって「仲間になる」と言う事は無かった。
なんなら、『一生』仲間なんてものにならないだろうとすら思っていた。
しかし、そんな私をほっておかない人物が突然、目の前に現れた。
その人物は私と言う存在を認識するや否や、一方的に話しかけてきた。
「それは何の本だ」「委員会は何処だ」「部活は何だ」「趣味は無いのか」「誕生日は何時だ」「得意科目は何だ」等等・・・・・
と、まあ、それこそマシンガンの様に話すものだから、最初は無視しようとした。
そしたら向こうは飽きるわけでもなく、私が興味を持ちそうな話を持って来た。
仕方なく、それ以降はその人物と話す様になった。
その後のある日は無理矢理、私を連れ出して色んな人達に会わせてきた。
会わせた人達は皆、その人物の仲間なのだろう。
その人物と同じ様に話しかける人間もいれば、逆にしっかりした人物も居て・・・・・皆、会ったその日以降、私を見かけたら声をかけるようになった。
そうして、会う回数が増えていって・・・・・
気付けば、私もその人物達の仲間になっていた。
気付いた時に戸惑ったが、その人物は
「まあ、別に最初はそんなもんさ。今までそう言うのした事無いんだろ?なら、コレから慣れていけばイイ」
と言った。
そうして、その人物達との付き合いは10年以上にもなった。
未だに、私は仲間に慣れなくて。
未だに、私から仲間になれなくて。
でも『それで良い』と言ってくれる人間は、10年以上前に比べたら増えていた。
コレが『仲間』と言う物なのなら、
昔の自分へ、存外悪くない事を伝えたい。
By ある外科医の飲みの席での独白