あご下

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11/1/2023, 1:34:05 PM

「無限の愛と、永遠の愛、どっちがいいと思う?」
スマホを眺めていた幼なじみが不意に零した。
彼氏と別れたからさよならパーティをしたいと呼び出されてから半日、持参したケーキやスナック菓子、思いっ切り食べようとデリバリーで頼んだピザを食べ散らかし、ほとんど文句ばかりだった思い出話を聞き終えて、彼女は二人で撮った写真を整理しはじめたところだった。僕は思い出のグッズ処理班を任され、もったいないなあ、と思いながらも夢の国のカチューシャをゴミ袋に入れていた。
「それ、どう違うの?」
どっちも終わりがないという点では同じだと思う。
「わかんない?」
「わからんよ」
「無限の愛は、いくつでもでてくるラムネって感じでえ、永遠の愛はながーいポッキーみたいな感じ」
「……で?どこがどう、選ぶポイントなん?」
「フィーリング」
幼なじみの目尻に、涙が浮かんだ。重力に従って、ぽたりと落ちると胸に抱えていた黄色いクマのクッションに小さく染みができる。昔僕がプレゼントしたもので、すこし色褪せてきている。
「彼氏は……、元彼は、もっと、アソートチョコみたいなのが良かったんだなって」
「ますますよくわからん」
でも、なんとなくわかった。一種類の決まった味だけじゃなくて、他の色んな味を感じながら、ひと袋分、いつか終わるまでを楽しみたいタイプということだろう。
それじゃあ僕は長い長い、チョコ部分すら終わらないポッキーを選ぶと思う。
君が齧りにくるのを、ずっと待っている。

11/1/2023, 12:43:35 AM

炬燵、もたれ掛かるためのビーズクッション。スマホの充電器も延長コードでめいっぱい近づけている。大容量の魔法瓶に熱いコーヒーをたっぷり注いで、お菓子も甘いものとしょっぱいものを用意してある。積んであった本を数冊と、読み返したかった漫画、どこでも遊べる家庭用ゲーム機で抜かりはない。
これが私の理想郷。完璧な楽園。

そこを踏みにじる、突然の尿意。

10/30/2023, 1:37:19 PM

夏の、まだ涼しい時間とか
秋の野焼きであったり
離れた土地で暮らしていても
ふと、子供のころの記憶を呼び覚ますきっかけは
だいたい鼻孔からやってくる
そしてたいてい、しんみりさせていくのだ

10/28/2023, 12:54:51 PM

夜中に目が覚めた。直前までなにか夢を見ていたはずで、それがあまりいいものでは無かったことくらいは覚えている。天井の輪郭もぼんやりとする中、もう一度眠りたいとは思うものの、尿意と相談をしたいところで、とりあえずはあと何時間寝られるのか知りたい、となればスマホがいる。
メガネもスマホもだいたいは枕の左側、ベッドをピッタリと寄せた壁側に置いている。今日もそこにあるはずだ。数時間前の、眠る直前の自分の思考との推理ゲーム。時々、きちんとサイドテーブルの方に置いているから侮れない。引っ越してすぐは安くてそれなりにお洒落そうなこのベッドを選んだものの、やはりちょっとした小物置きスペースがあるタイプを選んでおくべきだったと、こういう時に実感する。
なかなかスマホの感触が探せない。起き上がる気はなかった。ここで起き上がって、電気をつけて探せばあっという間に見つけられるのはわかっているのに、どうにも意地になって毎度負けられない戦いに身を投じてしまう。愚か。
「スマホー」
「ここだよ」
ひんやりとしたなにかが手のひらを掴んで、ぐっと持ち上げた。そのまま枕の下に突っ込まれると、コツンと固いものに触れた。ケースにもいれていない、私のスマホだ。たしかに、アラームをちゃんと聞きたいときは、なんとなく頭に直接響く気がして枕の下に突っ込む人間なのだ、私は。
私は、一人暮らしだし。スマホを枕の下に潜り込ませた数時間前は、いつも通り一人で眠ろうとしていた。
誰だ、今の声は。
放心しながらもスマホのホーム画面を表示させた。あと三時間で、憂鬱な月曜日がくるらしい。

10/27/2023, 11:48:37 PM

文章が思い浮かばない。
パソコンの前に座り、BGM代わりにと思ってスマホで再生していた映画はすでにエンドロールが流れている。
締切もなにもない、ただの趣味で続けている創作だけど、最近は仕事の忙しさもあってか学生の頃ほど書ける文章の量が減ってきた気がする。書きたい!と土日で一本は短編を書きあげていたあの燃え盛る情熱と体力は、今や蝋燭に灯る小さな炎のよう。最近全然書いていない、書かなくては。そんな焦燥ばかり胸の中に渦巻いて、キャラクターたちのセリフひとつロクに浮かんでこない。
ため息がこぼれる。
立ちあがり、キッチンで気分転換のお供を探していると、棚の奥の方に白いキャニスターを見つけた。お茶の専門店で買った、甘い香りの紅茶だ。
密閉目的の固い蓋をあけると、バニラの香りがして、それと同時に素敵なセリフを思いついた気がしたけれど、それはさっき眺めていた映画の真似でしかなかった。

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