あご下

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9/3/2024, 12:42:52 PM

「あ、猫」
隣を歩いていた友達が目の前をさっと横切った野良猫を指さした。
「今日はいい日だ」
これが友達の口癖。横断歩道で立ち止まらずに青に変わった、電車で席が空いていた、お弁当に冷凍のグラタンが入っていた。そんな些細なことでも、彼女にとっては幸せなのだという。
「毎日楽しそうでいいね」
私はため息をつく。寝坊したし、授業では指されるし、これから家に帰っても今日はお母さんが遅くなる日だから、夕飯はなんとか亭の地味なお弁当だし。
「そりゃ楽しいよ!」
友達が驚いたように目を丸くしたあと、にっかりと歯を見せて笑う。
「友達と一緒のときって、なんでもないことも楽しいじゃん」
だから、とそのまま彼女は続ける。
「田中もハッピーになれるような寄り道しよ!マック?サーティワン?」
指おり数えていく候補はすべて食べ物のお店ばかりだった。その様子にぷっと笑いが込み上げる。
「それ鈴木が行きたいとこでしょ。お腹空いたの?」
笑いながら、駅へと進む方向を変える。
ため息をつきたくなるほどのもやもやしていた気持ちは、もうどこにもなかった。

8/17/2024, 12:19:42 AM

テレビの向こうで、メダルを逃した選手が目尻に涙を浮かばせている。申し訳ない、と顔をくしゃっと歪めた。応援してくれた皆さんに申し訳ないと。
そんなこと言う必要ない。
あなたが立つその場所。その舞台にたどり着くこと自体が素晴らしいのだ。
だから、誇ってほしい。
世界の広さを伝える役目を果たせたと。私たちに勇気と、夢を与えてくれたことをどうか誇って。
胸を張って、この国に帰ってきてほしい。
「昔は私の方が強かったのになあ」
夢を諦めなかったあなただからその場所に立てた。
「……またジムでも行こうかな」
テレビを消し、トレーニングウェアを閉まったはずのクローゼットに向かう。

12/18/2023, 11:48:44 PM

うちの猫は抱っこが嫌い。
撫でろ撫でろと擦り寄ってはきてくれるけど、愛しさが爆発して抱きあげれば、嫌だと暴れて去ってしまう。ごめんね、と謝ってももう遅い。しばらくは避けられてしまう。
そんな時でも、もう寝ようと布団に潜り込めば、ここは暖かいと知っている猫が一緒にやってくる。
ここでまた爆発させてはいけない。寝るのー?と眠くて構ってあげられません、という態度を見せるのが大事なのだ。たぶん。

可愛い猫。きみがいるから、冬が大嫌いとは言えないんだよ。

11/7/2023, 11:20:58 AM

あの人はわたしと散歩にでかけるのが好き。
あなたとは家のなかで遊んでばかり。
あの人がわたしの名前を呼ぶから、わたしはなあに?って返事をするの。
あなたは何度呼ばれても窓の外に夢中。
待てって言われたら、美味しいご飯が目の前にあっても我慢するけど、あなたはなーんにも聞こえないフリして一人だけお腹いっぱいになってる。
ボール投げてもらうのが大好き。時々あなたに盗られるけど、あの人が慰めてくれて、噛むおもちゃをくれるから別にいいの。

あなた、わたしと全然違う。
でもあの人がいないと寂しいのは一緒みたい。
わたしが大好きなあの人の匂いのするベッドで寝てると、あなたがお腹のところにくっついてくるの、わたし知ってるの。

あの人がお仕事から帰ってくるまで二匹で留守番、頑張りましょう。

11/2/2023, 1:21:34 PM

またやってしまった。
自己嫌悪にため息しかでない。
くつくつと目の前の鍋がお湯を沸騰させている。
右手には罪の塊、袋ラーメンの塩味。目の前には冷蔵庫から取り出した卵、余っていたキャベツ。
今日からダイエットすると決めたのに。だから夕飯はいつもより早く、サラダチキンと豆腐とキムチで頑張った。有名ダイエッターの動画を見ながらトレーニングもしたのに。
どうしてこんなに意思が弱いのか。
布団に入って、明日からの連休に油断してダラダラとスマホを眺めたせいだ。飛び込んできたグルメ漫画をついつい1巻分読んでしまったら、ヘルシーだった夕飯に抗議したい腹の虫は止まらなかった。
朝はあんなに出たくない布団をすぐに抜け出して、こうして深夜のラーメンと向き合っている。
塩ラーメンにしたし、野菜も入れるから、許してほしいな。なんて、今日も自分に甘すぎる。
器に移したラーメンに付属のゴマを散らして、ラー油なんか垂らしてカロリーを上乗せしてしまう。
ビールの誘惑はかわしたのに、コーラの赤いラベルには勝てなかった。
パジャマがもこもこしだしたこの時期に、ほかほかと嬉しい湯気をくゆらせるラーメンをテーブルまで運んだ。
美味しい。最高。
ダイエットに成功して喜ぶ私も、食べたい時においしいラーメンを堪能しちゃう私も、どっちも大事。
でも一応、明日から寝る前のスマホは控えることにしよう。

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