あご下

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「あ、猫」
隣を歩いていた友達が目の前をさっと横切った野良猫を指さした。
「今日はいい日だ」
これが友達の口癖。横断歩道で立ち止まらずに青に変わった、電車で席が空いていた、お弁当に冷凍のグラタンが入っていた。そんな些細なことでも、彼女にとっては幸せなのだという。
「毎日楽しそうでいいね」
私はため息をつく。寝坊したし、授業では指されるし、これから家に帰っても今日はお母さんが遅くなる日だから、夕飯はなんとか亭の地味なお弁当だし。
「そりゃ楽しいよ!」
友達が驚いたように目を丸くしたあと、にっかりと歯を見せて笑う。
「友達と一緒のときって、なんでもないことも楽しいじゃん」
だから、とそのまま彼女は続ける。
「田中もハッピーになれるような寄り道しよ!マック?サーティワン?」
指おり数えていく候補はすべて食べ物のお店ばかりだった。その様子にぷっと笑いが込み上げる。
「それ鈴木が行きたいとこでしょ。お腹空いたの?」
笑いながら、駅へと進む方向を変える。
ため息をつきたくなるほどのもやもやしていた気持ちは、もうどこにもなかった。

9/3/2024, 12:42:52 PM