あご下

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文章が思い浮かばない。
パソコンの前に座り、BGM代わりにと思ってスマホで再生していた映画はすでにエンドロールが流れている。
締切もなにもない、ただの趣味で続けている創作だけど、最近は仕事の忙しさもあってか学生の頃ほど書ける文章の量が減ってきた気がする。書きたい!と土日で一本は短編を書きあげていたあの燃え盛る情熱と体力は、今や蝋燭に灯る小さな炎のよう。最近全然書いていない、書かなくては。そんな焦燥ばかり胸の中に渦巻いて、キャラクターたちのセリフひとつロクに浮かんでこない。
ため息がこぼれる。
立ちあがり、キッチンで気分転換のお供を探していると、棚の奥の方に白いキャニスターを見つけた。お茶の専門店で買った、甘い香りの紅茶だ。
密閉目的の固い蓋をあけると、バニラの香りがして、それと同時に素敵なセリフを思いついた気がしたけれど、それはさっき眺めていた映画の真似でしかなかった。

10/27/2023, 11:48:37 PM