いつまでも捨てられないもの、を捨てることが出来るようになり、では次はどこへ行こうかということになる。重く。ただ重く。動くには重く。そういうものを捨てられたので、あなたはどこへでも行っても良い。
どうやら失われていたらしいと気づくまでに今日まで掛かった。などと言ってまた明日も同じように「どうやら失われていたらしい」と気づいてみせるのかもしれない。驚きと希望と悔恨に満ち満ちた傷ましい顔で。さながら脱皮のように、割れて崩れ落ちる己の仮面を指差し笑いながら。きっと失われた時間の中に、狂い続けた時計の合わせ方を置いてきてしまったのだろう。
無が欲しい。それをおまえたちは「何もいらない」と言い換えるので思わず口を噤む。ドライアイスのかけらをコップに落とし、煙が床を這っていく。その煙の動きのような緩さと忙しなさが合わさったちぐはぐの欲求がここにある。空気の入れ替えをしなければ、と思う。途端に息苦しくなっていく。無を望む難しさに挫けそうになる。何もいらない、と言い換えてしまいたくなるばかりである。
かみさまへ。私をつれていかずにあの人をつれていくの。
星空の下でお前を探す。地上を探せばいいのは俺にとっては幸いである。天を見上げて星から探せと言われても困るだろ。N光年先にいる星が、今は死んでしまったがその光だけを地球に届けている状況かもしれず、「あなたがこの光を受け取る頃には私はもうこの世にはいませんが」そんなのは困るだろ。だからお前が地上に落ちてる星で良かったのだという話になる。一向に見つからないが。お前の名が付いた星が天に浮かんでいればまだ何かの慰めにはなったかもしれない。今日は見つからなかったがまた明日も探すさと重くなった頭をどうにか上げて目配せ一つやれるだろ。でもお前にそんな都合のいい名はついていないので俺は今日も地を這って探している。どんなに素朴に光ってくれても構わないから、俺を呼んでくれと願う。