いす

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12/26/2023, 4:09:45 PM

だといいね。という他ない。今の私には興味の浅い話だ。
変わらないものはないと良いね。いつか海は二分されその地底を剥き出し、いつか太陽は西から昇り、いつか私たちはその太陽に直に灼かれてうしなわれる。その前に君を黄泉のくにから取り戻す。そうだと良いね。
私の世迷い言に君は応えない。
おそらくそちらの機体はすでにcoldに移行し、元々つめたくかたくなっていた君の軀はさらにつめたくかたくなって、腐敗して死にきることも叶わなくなった。日々刻々と作り変えられていく私の軀が、君に触れた箇所の血肉をすべて書き換えて忘れていく。君がいない事実も更新されていく。死にきれなくなった君が日々を継続していく。継続と変化はほぼ同義である、と私は受け取っている。
cold、私の認識そのものをいまここで止めることは可能か。
万物の無変化を死者たちだけが勝ち取っていくことがどうにもゆるせなくてこまる。

12/26/2023, 6:58:07 AM

ピアスのキャッチがない、と家に着いてから気づく。本体はあるのでそれで良しとしたいが対になっていないものを見るのは少し落ち着かない。そういう欠けた物の補い方にいよいよ疲れてしまったのが今年のクリスマスだった。補わなければならないものである。欠けたままに出来ないものである。不充分なまま、不完全なまま、対を演じてみせて笑ってやるものである。そういう心のいなし方が否応なく目について鼻についてしまった。ピアスのキャッチがない。本体はあるのでそれで良しとしたい。すべきである。君からのメッセージが届いている。いびつな補いの、不完全な対のその隙間を埋めるように、一言一言を噛み砕いで舐め取って読んでいく。

12/25/2023, 7:32:12 AM

先生がいなくなった後も日々は少しずつ進み、拡張していきます。あなたがかつてあなたの物語で呟いたささやかで重大な痛みや悲しみや愛を、疑いを、愚かさを気高さを、そのまま反転する言葉で、それでも強く、あまりにも力強く、語り直す物語をイブの夜に受け取りました。その後を生きる私には痛みを伴うほどの喜びでした。耐え難い苦痛にまみれた喜びでした。あなたがいない日々が更新されていく。おぞましさと、さみしさと、喜びに手を引かれながら。

12/24/2023, 6:23:41 AM

等価であるのは難しい。プレゼントの話だ。交換しようということになっている。交換の約束をしなくてもおのずとそうなるが口約束もイベントの演出である。まぁそれはいいとしてより頭を悩ませることにはなる。
こちらの気持ちがいつも大きいような気がしている。
かつ重い。温度については不明。
天秤の片側に乗せるには躊躇われるほどだ。自覚がある。等価とは。今年の冬はさらに特別だ。君と私が決定的に失われ、私たちが徹底的に傷つき、泣き腫らしたあの日から一年経ったことになるので。君がどう思っているかは知らないが、交換しようと言い出したのは君なので少なからず思うことはあるのかも知れない。香水、時計、財布あたりがくるかもしれない。私がリーディングに入れてる新作のアクセサリーの記事を横目に見ていたかもしれない。目敏いので。
「なあ、決まったか?」
そんなことを思っていたら困ったような顔をしてこちらにやってきた。
「欲しいものがあるんだけどリクエストは可か?」
台無しである。自ら台無しにするのが得意な人ではある。でもこちらは等価であることに頭を悩ませていたので君の望みを叶えられるのならそれがいい。
「ペアの…その、ペアのリング、リングじゃなくてもいいんだけども、なんかそういう揃いの」
引き続き困った顔で言っている。おそらく私も同じような顔をしているのだろう。こうして心も表情も愛もなにもかも、均しく分け合うことを、あの日の私たちが見たら笑うかもしれない。

12/22/2023, 8:28:10 PM

「あまり馴染みがない。何なら、ほら、チューブ入りの調味料。柚子胡椒の。あれを先に知ったくらいだ」
「嘘つけ」
まるまるとした柚子を手に取ってしげしげと眺めている。これが噂の、などと言っている。そのくせ「桃栗3年柿8年、柚子の大馬鹿18年」といった言葉は知っているらしいのでどうにもちぐはぐだ。
「私たちが結実するまで18年」
歌うように言う。そのまろやかなさえずりを聴くと柚子湯を楽しむのもありかと思ったりもする。馬鹿と馬鹿が共にいるようになるまで18年。18年も掛かったのに、君が柚子の果実に触れたことがないと知ることもなかった。愛ならとうにこの手のなかにあるのに。

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