いす

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「あまり馴染みがない。何なら、ほら、チューブ入りの調味料。柚子胡椒の。あれを先に知ったくらいだ」
「嘘つけ」
まるまるとした柚子を手に取ってしげしげと眺めている。これが噂の、などと言っている。そのくせ「桃栗3年柿8年、柚子の大馬鹿18年」といった言葉は知っているらしいのでどうにもちぐはぐだ。
「私たちが結実するまで18年」
歌うように言う。そのまろやかなさえずりを聴くと柚子湯を楽しむのもありかと思ったりもする。馬鹿と馬鹿が共にいるようになるまで18年。18年も掛かったのに、君が柚子の果実に触れたことがないと知ることもなかった。愛ならとうにこの手のなかにあるのに。

12/22/2023, 8:28:10 PM