レプリカ。君がそうである。オリジナルの天の御使たちは失われてしまった。君は飛べない。誰も飛び方を知らない。君は博物館に住んでいる。ガラスの向こうで羽を動かしてみる。人々は色めき立つ。君は飛べない。正解を知らない。ここにはガラスがあり、天井があり、飛べたところで行く場所もない。
幽霊の正体見たり枯尾花、と言ってお前は笑うが生憎ここで揺れるススキはすべてただしく幽霊である。猜疑と呪いが蔓延っていて、それでもどうにもあたたかい場所である。かつて命であったものの溜まり場なので不思議ではない。
「連れて帰るのか」と言う。俺が。枯れた声が出る。お前の前には深く深くこうべを垂れたススキがあり、轟々と揺れる風にピクリとも反応しない。「死にたてほやほやだから揺れ方ってモンが分かんねーんだな」とお前は笑う。それから「連れて帰らない」と続く。ならどうしてその鎌を持ってきた。死神が持ち歩く鎌よりよっぽど粗末ではあるが、どうして。
「俺は生きてるから」
お前は三度笑う。
「分からねーだろう、生きてるから、持ち帰らないと決めて会いに来たって鎌を持ってきちまうんだ」「お前はもう風の乗り方も覚えてしまって、そんなことをとうに忘れたんだろうな」
お前の脳の裏に棲む獣に、お前はときおり餌をやり、まだ死ななまだ死ぬなまだ死んでくれるなよと話しかけていることを、私は重々知っている。何故なら私がかつて飼っていたものに、私は同じ振る舞いをしていたからだ。あれは獣ではなかったが。空を駆けろ、野を蠢け。愛の話をしなくて済む獣を、飢えと怒りで垂れていく涎が檻の床をぬかるませ、それを見て休まる気がお前にいくらかでもまだ残っているのなら、生かしてやれ。私のようにただの動死体として生きるよりはマシだろう。
そうして。はやく。何よりも望んできた。誰も彼もが偉いと言った。誰も彼もが、毎日学校へ行って、仕事をして、おうちのことをして、生活をして、他人を慈しんで、生きてるだけで私たちは素晴らしいものであると言った。生きてるだけで偉いと誰も彼もが。
ねえ、お願いよ。ねえ。はやく。何よりも、何よりも望んできた。私を全くの意味のないものにさせてよ。
一生難しい。一等難しい。この距離の縮め方を、離し方を、あなたとわたしはわからないまま、ときに向かい合ってときに隣り合って、笑うことはできる。