いす

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11/6/2023, 3:26:16 PM

そういえば雨を見ていなかった。聞いていなかった。触れていなかった。嗅いでいなかった。傘は錆びていて、ふと触ってみたが開きそうにない。それだけの月日が流れているらしい。
「遅れてすみません」
やってきた客の肩は少し濡れていて、ビニル袋に入った軸の太い紺の傘がその滴を先端に落とし袋をゆるく膨らませている。柔らかな肩にあなたは触れる。まとう雨の匂いを嗅ぐ。ビニル袋が床を擦る音を聞く。あなたは彼に口付ける。こんな断絶された小さな部屋にも、どうやら雨は降るらしい。

11/5/2023, 2:16:37 PM

閃光。煌めいて。ひかる朝露のようにか細く。蟲たちのまとわりつく街灯のように鈍く。ネオンの雑踏のようにうるさく。あなたの愛のように激しく。あなたがあの子の嘘も涙もまるごといつくしんだことを、その光が地球よりはるか向こうの未来へ送るから。

11/4/2023, 2:13:55 PM

あなたがさみしいものであるたびに、行方知れずの私の未来が手元に落ちてくるようでした。やるべきことができたような気がしたのです。あなたを守らなければいけないとか、あなたを笑わせようとか。ただのおこがましさであり、勘違いであることがほとんどでしたが。それでもあなたは私がとなりに在ることを許しましたね。あなたは私を笑わせ、守りましたね。そのことに救われこそすれ、傷つく権利など私にはなかったというのに。

11/3/2023, 1:26:09 PM

あなたのなかにわたしが映る。わたしのなかにもおそらくあなたはあなたを見出している。そのなかの互いにまた私たちを映し出す。その瞬間を繰り返していく。知らないことがまだこんなにもある。その幸を赦せ。

11/2/2023, 11:42:18 AM

水を一杯。くしゃみをひとつ。耳鳴りは止まず、そのなかであなたの声がモヤがかかったように響く。あなたの渇きが眠りの前の水一杯で癒されることはない。眠りの中、闇の中、幸福な夢の中、深く深く潜水して、大丈夫になったら、あの子の「おはよう」で目覚めてね。

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