コンビニで買ってきたお菓子をグラウンドの片隅で広げながら、野球部の練習を見ている。わたしたちがこんなところでうずくまってる間に夏は終わろうとしていて、アイスが溶ける速度をゆるめてそれを教えてくれる。つよくよわくうつくしくただしく、何の敵もないわりにはあらゆるものに怯えていたわたしたちが終わろうとしている。明日もまた会おう、変わりゆくわたしたちが、今日の続きの結果だと示すために。
一年ぶりに開かれるカーテンが、窓が、埃を舞わせてあなたの目に涙を溜める。ここへはもう二度と来ないつもりだったのに。思いもよらずの短い時間で帰ってきてしまった。あなたの不在に埃たちはひっそりと降り積もって時間を毎秒数えていた。平等な時間がこの部屋にもあったのに。あなたの生きた一年は透明に分裂して、この部屋で埃たちとダンスを踊っていたのだと、もう一度カーテンを閉めるまでのあいだあなたはずっと噛み締めている。
要らないと言う。何もかも。そうかとうつむこうとすればふと振り返って同じ口で要るのだと言う。あなたが。来世で会いましょう。あなたが私を必要としてくれるなら。私があなたを必要とするのなら。会いましょう。こぼれた別れは理由も不明なまま川に流れ、うそぶきながら海へと泳ぎ出る。俺は海など知らないので、そうかとやはり返すしかなく、それでもうつむきわずかに下ろした瞼の下で海を思い描いてみる。呪われてしんでくれ。愛にまみれて焼かれてくれ。荼毘に付された理由が自ら語り出すまで、俺の骨とともに海の底に沈めてくれ。
楽しいんだよ。隙間がないほどにお前の体を抱えて、お気に入りのソファに沈み込んで、お気に入りの曲を爆音で鳴らして、心音がからだのなかでふたつになって馴染んだ頃に朝が来て、また分かたれる、その瞬間が。おはよう、とお前の声で聴くその瞬間が。何にも替え難いお前と他人のまま寄り添えるその体温が。
爪を研いでいる。滑らかに。何者も傷つけないように。粉になった肉片があなたを埋めていく。昨日を振り返り、明日を勘定する。心のいまをそうして向こうにおいて、肉体はあなたを労わるような態度で、明日の準備をしている。これがあなたの休息である。愚かで愛しいあなたの休息である。