『踊るように』
パチパチと音を立て
踊るように舞う火の粉
子供の頃に
キャンプファイヤーで
見た炎の美しさ
暗い夜空に
赤い小さな火の粉が
バチバチと音を上げながら
ゆらゆらと
上へ上へと
空に向かって
登っていき
消えていく
ずっと見てても
飽きない美しさ
炎を囲んで
皆で
焼きおにぎりを食べた
とても
非日常的な光景だったのを
覚えている
『時を告げる』
帰省すると
防災スピーカーから
懐かしいオルゴール調の『夕焼け小焼け』が流れていた。
子供の頃
近くの駐車場や学校の校庭で"かけ十"や"サッカー"、"かくれんぼ"、"ドロ刑"などをしていても
『夕焼け小焼け』が聞こえてくると
皆、慌てて遊びを止めて、「またねー」と走って家に帰った。
『ドボルザークの家路』が聞こえてくると
布団で横になりながら、早く寝ないと怒られると思った。
夏休み、母の実家に帰省して
従姉弟と朝の散歩中に『故郷』が聞こえてくると
なんだか、いつもと違う今日一日がこれから始まるというワクワク感が込み上げてきた。
子供の頃は、
チャイムが鳴ったら、帰ってきなさいという家庭のルール
チャイムが鳴ったら、もう夜遅いから子どもはもう寝てないといけない時間という習慣
チャイムが鳴ったら、今日が始まるイメージ
という大雑把な括りの中で生きていたので
時を告げるチャイムのおかげで
時計を読めなくても、腕時計を持っていなくても
時を知ることができたんだなと思った。
今、住んでいる地域でも、チャイムが鳴っているらしいが
どんなメロディーなのかは
十年以上住んでいるが知らないし、聴こえてきた記憶もない。
大人になり、時間に追われ
携帯電話でいつでも、時間を知ることができるから
時を告げるメロディを頼ることもなくなったからだろう。
また、自分の興味のある音にしか関心が向かず
不必要なノイズとして脳が勝手に処理をしてかき消しているのかもしれない。
もう一度、
耳を澄まして、
今いる地域での時を告げるチャイムに
耳を傾けてみようと思った。
『貝殻』
大昔、貝殻はお金みたいなものだったらしい
こんなものがと今では思ってしまう
でも、牡蠣とかの貝殻の内側が
キラキラと虹色に輝いている貝もあり
キレイだなと見惚れてしまうため
あながち嘘ではないのかなとも思う。
時折、大きな貝殻を飾っているお家を見かけると
大昔の人間の習性なのだろうかと思ってしまう。
『香水』
17の時に、初めてお付き合いしたあの娘がくれた誕生日のプレゼント。
フィルムケースほどの大きさの藍色ベロアの小さな小箱。
その中には、小さな小さな香水の瓶
「お金が無くて、試供品でごめんね」とあの娘は言っていた。
あまりおしゃれを気にしない私が、絶対に自分で買わないし、選ばないだろう一品。
自分とは違う環境で育ったあの娘が選んだプレゼントだからこそ、私の手元に迷い込んできたジャンルの品。
だからこそ、私の中では珍品となり、
二十数年経った今でも
使い終わった小瓶を捨てられずに持っている。
もう、小瓶の中は、
ほぼ空っぽなのに
蓋を外すと
とてもいい想い出の香りが残っている。
目を瞑ると
若かりし自分とあの娘の姿
あの夏の思い出が蘇る。
今
だから思う。
本当に良いプレゼントをもらったんだなと。
『言葉はいらない、ただ・・・ 1』
あたいは、いつも思う
言葉はいらない、ただ飯を出してくれればいいのだ!
ちょっと、いつもより早くても
だいたい時間になればわかるだろう!
とにかく、今は腹が減って仕方がないにゃー
犬でも無いのに、お手なんてしないにゃー
飯を早く出すニャー!
『言葉はいらない、ただ ・・・ 2 』
にゃーにゃーにゃーにゃー
うるさいよー
まだ、朝ごはんまで
あと30分あるから
もう少し寝かせてよー
時間になれば、仕事に遅れないように
起きないといけないから
その時に、ご飯はあげるからさぁ
言葉はいらない、ただ 時間になるまでは
静かに待っててくださいな
『言葉はいらない、ただ ・・・ 3』
最近腰が痛いなあ
ちょっと今日は、久しぶりの遠出で歩き過ぎたかのう。
チョイと疲れたから、帰りの電車は座りたいのう。
おっと、やっと電車が来たのう。
よっこらしょっと。
おやおや、チョイと混んでるのう。
空いてる席はなさそうじゃのう。
でも、大丈夫。
この老いぼれを見てきっと席に譲ってくれるじゃろう。
ほれ、そこの20〜30代の若いの
この老いぼれに席を譲らんか。
此奴、寝た振りしおって。
ほれ、その隣の50代ぐらいのサラリーマン
この老いぼれに席を譲らんか。
なんと、ベロベロに酔っ払いおって。
ほれ、そのまま隣の学生さん
この老いぼれに席を譲らんか。
まったく、ずっと携帯ばかり見ってからに。
これ、向かいの御婦人方
この老いぼれに席を譲らんか。
ペチャクチャ、おしゃべりに夢中になりおって。
言葉ないらない、ただその席をさっと譲ってくれんかのう。
まったく最近の若いものは、人間ができとらんのう。
いつから、この国はこんなになってしまったんじゃ。
世も末じゃな。こんな老いぼれを前にして堂々と座りおってまったく、けしからん!
とならぬように、できるだけ優先席のあるドアの近くで
ご高齢で座りたい方は、待っててくださると助かります。
そして、優先席に座る人は、いつでも譲れる準備と心構えをしましょう。