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4/23/2024, 2:42:20 AM

真っ白い校舎の屋上に貴方の影が見えた時、私はもう走り出していた。単なる思い過ごしかもしれない。でもじっとしていられなかった。嫌な予感がしたから。

荒い呼吸と一緒に冷たい階段を駆け上がる。
「どうして」がリフレインする。
最悪の状況を考える。
落ちて肉塊になった貴方を頭から振り払う。
5階分の階段が、ものすごく長く感じた。

屋上の貴方は酷く穏やかな顔をして、こちらを見つけて手を振った。あと一歩のところでだ。
「何してるの?」
飛び降りるつもりじゃないよね?
私はよほど不安そうな顔をしていたんだろう。貴方は優しく微笑んだ。
「鳥になりたいな〜って思って」
間の抜けた声。続く私の声は半分悲鳴だった。
「なれないよ。人間は鳥にはなれない。なっちゃいけないんだよ」
「……そっか」
少しの間の後、貴方は私に近づいた。
「じゃあ、次は魚にでもなりに行こうかな」
冗談じゃない。
「その時は私も連れて行って」
「うん、一緒に行こう」
そう言って、貴方は私を抱きしめた。青空の下。

それでいいと思った。
私の行動がたとえ、間違いだったとしても。
せめて、今は。

4/9/2024, 12:52:39 PM

私の腕の中で冷たくなってく貴方を抱きしめて、ぼろぼろ泣いた。最期の場所に私を選んでくれたことが嬉しくて、でも悲しくて。
そうして、私は今更気がついた。

愛してたんだ。私、貴方のこと。
誰よりも、ずっと。

3/3/2024, 4:58:23 AM

私が生きるこの暗い世界の中で、あなたは私の唯一の希望だった。あなたがいたから私は頑張れたのに。

あなたは変わってしまった。

勉強を始めて、スポーツクラブに通い始めて、友達を作るようになったのだ。
かつて私が、唯一見下すことのできた人。
あなたのおかげで私は立ってられたのに。
100点のテストを持ったあなたは、赤点の私に笑顔でこう言った。

「ありがとう!君のおかげで私は頑張れたんだ!
君の姿を見て、君のようにだけはなりたくないなって!!

あなたは出来損ないだった過去の私にとって、ただ1つの希望だったよ!」

2/16/2024, 2:10:58 PM

誰よりも強いと思ってたあの子は、
実は1人じゃ立てなくて、
誰も知らないところで泣いていて、
私の前では愚痴をこぼした。
「こうやって愚痴吐けるの、あなたしかいないんだ」
誰よりも強いと思っていた私の友達は、今まで見た誰よりも弱く見えた。


誰よりも弱いと思ってたあの子は、
実は1人で戦える力があって、
誰も知らないところで努力して、
私の弱さを全て受け止めてくれた。
「大丈夫だよ。私にいつでも頼ってね」
誰よりも弱いと思っていた私の友達は、今まで見た誰よりも強く見えた。

2/14/2024, 11:20:29 AM

「昨日一睡もできなかった」

って友達に言ったら笑われた。
仕方ないじゃないか!だって今日は、彼女ができた年の初めてのバレンタインだ。

「そんなに心配しなくても、貰えるだろ」

うるさい。お前は実際に彼女ができたことがないからそんな事が言えるんだ。
心の中でぼやき、俺は空を見上げた。
晴天。絶好のバレンタイン日和だ!
大丈夫!もらえる!もらえるさ!!
震える拳を握りしめて、大きく深呼吸してから、学校への敷地へと踏み込もうとしたその時だった。

「おはよう」

彼女の明るい声が背中から飛んでくる。
俺が何か言う前に、彼女が口を開いた。

「これ、バレンタインのチョコ。家に帰ってからあけてね」

ちょっと上擦った声と、早口。
駆け足で去っていた彼女の耳は真っ赤だった。

「よかったな」
「……おう」

赤いハート型の箱に丁寧な包装。ピンク色のメッセージカードには『これからもよろしく』の文字が彼女の筆跡で踊っている。
俺の口角がいやがおうにも釣り上がる。

これが、あぁこれが、幸せなのだな。

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