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真っ白い校舎の屋上に貴方の影が見えた時、私はもう走り出していた。単なる思い過ごしかもしれない。でもじっとしていられなかった。嫌な予感がしたから。

荒い呼吸と一緒に冷たい階段を駆け上がる。
「どうして」がリフレインする。
最悪の状況を考える。
落ちて肉塊になった貴方を頭から振り払う。
5階分の階段が、ものすごく長く感じた。

屋上の貴方は酷く穏やかな顔をして、こちらを見つけて手を振った。あと一歩のところでだ。
「何してるの?」
飛び降りるつもりじゃないよね?
私はよほど不安そうな顔をしていたんだろう。貴方は優しく微笑んだ。
「鳥になりたいな〜って思って」
間の抜けた声。続く私の声は半分悲鳴だった。
「なれないよ。人間は鳥にはなれない。なっちゃいけないんだよ」
「……そっか」
少しの間の後、貴方は私に近づいた。
「じゃあ、次は魚にでもなりに行こうかな」
冗談じゃない。
「その時は私も連れて行って」
「うん、一緒に行こう」
そう言って、貴方は私を抱きしめた。青空の下。

それでいいと思った。
私の行動がたとえ、間違いだったとしても。
せめて、今は。

4/23/2024, 2:42:20 AM