最後に一目、故郷の浦の近い峰に、月を見たと思いました。それぎり、底へ引くように船が沈んで、私は波に落ちたのです。ただ幻に、その燈籠の様な蒼い影を見て、胸を離れて遠くへ行く、自分の身の魂か、導く鬼火かと思いましたが、ふと見ますと、前途(ゆくて)にも、あれあれ、遥(はるか)の下と思う処に、月が一輪、おなじ光で見えますもの。
泉鏡花『海神別荘』より
前回のテーマが『海の底』で、何か書くことあったかなと考えて、泉鏡花の戯曲『海神別荘』を思い出した。坂東玉三郎が主演、演出した舞台のほうの記憶があった。
著作権が切れたため電子書籍でも無料公開されているので読んでみることにした。積読派の私でも戯曲なら時間もかからず読めそうだと踏んだからだ。
大正時代に書かれた戯曲は漢字も多く、言葉づかいも現代と異なり、気づいたら寝ていた。見通しが甘かった。慣れないことはするもんじゃない。
想定より時間はかかったが読み終えた『海神別荘』の内容をかなりざっくり説明すると、海神の世子である公子と、贄として捧げられた人間の美女、その婚礼の夜のすったもんだである。
設定だけならマンガにも出てきそうであるが、そこは泉鏡花の美しい言葉で紡がれて格調高い。
冒頭の一節は、美女が自身が贄として船に乗せられてからのことを語る科白である。
月夜の海の情景が目に浮かぶような猫写が目に留まったので、ついでに今回のお題に絡めてしまえと紹介した。
『特別な夜』
卒業以来、久しぶりに会いたいと連絡してきた部活の同級生。
いそいそと出かけた私。
しっかり者だったあの子。
勝手な願いだけど、あの頃と変わらないあなたに会いたかったな。
あなたにとって私がそういう対象になってしまったことが悲しかったよ。
お役に立てなかったね。
疎遠になった人とは疎遠のままがいいと思ったあの日。
『君に会いたくて』
小心者である。
前回の『木枯らし』のお題に突っ込みを入れたあと、言わずもがなのことを書いたかな……と後悔する程度には小心者である。
しかも、いつもほど文を見直さなかったせいか、投稿後に言葉にミスがあることに気づき、さらに落ち込んだ。突っ込んでおきながら情けない……。
骨子にかかわる箇所ではないのでしれっと直しました。
さて、今回のお題は『閉ざされた日記』。
SNSやブログで秘密のアカウントを持ち、日々の想いを書いている人は、万が一のことがあったとき身内に見られる可能性を考えるだろうか。
遺族がデジタル遺産の確認のためスマホやパソコンのロック解除を試したり、業者に依頼することもあるらしい。もし日記を覗かれて、プライバシーの侵害!とあの世から叫んでも聞こえない。
自分はデジタルでもアナログでも日記はつけていない。かつてノートに書いていたものは、これを残しては死んでも死にきれないと思って処分した。
このアプリで書いたものを身内に読まれるのも恥ずかしい。何せ小心者なので、どんな顔をされるか気になる。その時にはもういないのに。
さらに見られたくないものといえば電子書籍アプリ。鍵をかけられるアプリもあると聞く。
そこまでドン引きされる作品は買っていないつもりだが(自信はない)、本棚は日記ほど雄弁ではないにしろ的確に人となりを語る。
余命が分かったらすべて闇に葬るのだが……。
『閉ざされた日記』
ちょいと違和感を覚えたので、あえて重箱の隅をつつくようなことを申しますと、『木枯らし』は冬の中でも初冬の季語になりますね。
木枯らし1号は10月半ばから11月にかけて観測されるようです。
最近、目を開けるのもつらい強い風が吹いた日がありましたが、今の時季なら『寒風』などのほうがそぐう気がしますな。
こういう細かいことを言う人って敬遠されますよね。まあ、匿名ですから。
『木枯らし』
亀「兎さん眉間にシワ寄せてどうかしました?」
兎「例の作文アプリ、この3日間のお題を繋げると妙に意味深でさ、それに沿ったものを書くべきかなって」
亀「繋げるとどうなるんですか?」
兎「どうして・この世界は・美しい」
亀「君は・薔薇より・美しい?」
兎「それは布施明。……美しいしか合ってないし、若い人には通じないよ?」
『美しい』
(かつての紅白常連)