ふっ、と消えてしまった。昨日まで隣にいたその姿は、振り返ってももういない。
あっ、と声を上げた。何かを思いついた君は、いとも簡単にこの世を去った。
小さな石ころをたくさん集めて、ぽっけに詰め込む君だった。
手のひらが傷つくのも構わずに。
ぽっけが破けるのも気付かずに。
大きな荷物を一人で抱えて歩き続けるような真面目さだった。
疲れたら少し休んで、重すぎる荷物は捨て置いて。
あの日、君の手をずっとずっと握っていてあげればよかった。
辛かっただろう。苦しかっただろう。
まだ夢を見ているみたいだよ。
名前を呼べばいつもみたいに、二階から降りてくる足音がして、まだ眠たげな君が顔を出して。
それからおはようと、優しい声が聞こえてくるはずなのに。
今はその影も、その声も。
君の可愛い笑顔もぬくもりも。
遠く遠く 空の果て
『遠く….』
わぁ!と声を上げた瞬間のきみの瞳を見ていた。
それは透き通っていてとても綺麗だった。
光を取り込んできらきらと輝いていた。
見つめていると吸い込まれそうだった。
その瞳に映る私は、どんな顔をしているのだろう。
笑っているきみが好き。
泣いているきみも好き。
涙を流しながら笑おうとするきみも好き。
どうしようもなくとめどなく溢れてくる。
それは言葉にならずに私の口から溢れ出た。
愛しい、ということ。
『わぁ!』
だいすきを伝えたい
『ただひとりの君へ』
かみさまは宇宙をつくるとき
なにを想っていたんだろう
あつく燃える太陽 その光をうけて輝く月
まあるくてきれいな地球
かみさまは その大きな手で
どうやって掌の宇宙を形造ったんだろう
道端に佇む小さな花 そこから落ちる種
水面に跳ねる魚たち ゆれる水草
かみさまは宇宙をつくって それを
てのひらに乗せて眺めて それから
そっと優しく包んでくれたらいいのに
そうしたら 世界はもう少し
優しいものになるかもしれないのに
『手のひらの宇宙』
ひとつ、ふたつ。
視界をぼんやりと歪ませては落ちていくもの。
みっつ、よっつ。
それは窓越しの黄色い街灯を反射して光る。
じんわりと湧き上がっては、ほろりほろりと、時には手の甲を転がり落ちて。
いつつ、むっつ。
薄暗い部屋でベッドに腰掛け、濡れた頬もそのままに、色を濃くしたシャツの裾を握り締める。
力の入った指先は白く冷たい。
眼球は静かに熱く燃えている。
怒りも哀しみも、後悔も自責の念も、行き場を失ったこの愛も。
ぜんぶ全部、涙に溶けて私の外へ出て行ってはくれないか。
ざあざあと遠慮もなく町に降る雨のように、全てを流し去ってはくれないか。
引き攣る呼吸の合間に、長く、重く、腹に溜まった息を吐く。
一緒に漏れ出た震える声が、嗚呼、もうどうしようもなく情けない声が、目頭をきゅうと締め付けた。
この感情を涙に変えられたとして、一体何が変わるというのだろう。
いや、そんなことは分かっているのだ。
何も変わらなくとも、今はただ。
それからどれ程の時間が経っただろうか。
纏まりのつかない考えがごちゃごちゃと頭の中で絡まっている。
熱い。寒い。同時に眠気が襲ってくる。
なんだかもう霞がかったような思考の中、まるで泣き疲れて眠る赤子のようだと、ふと思う。
少しだけ、おかしくなって力が抜けた。
そうして涙も乾くころ、大きく息を吸い込んで、私はひとつ小さな咳をした。
『透明な涙』