ボクはキラキラしたものが好きなんだ。
空を飛んでるとね、ときどき下の方でキラキラッと光るものがあるんだ。
それを見つけた時はね、ご飯のことなんてそっちのけ!一直線に降りて行って宝探しの始まりさ。
あ、ほら!今も草の陰でなにか光ったみたい。
今日のキラキラはなんだろう?綺麗な石かな?かわいいボタンかも。
この前見つけたまん丸で透き通ったガラスの玉はとっても美しかったな。
ここは大きな公園の散歩道。
いつだっていろんな人がのんびり歩いたり、せっせと走ったりしている。ときどき襲いかかってくる犬には気をつけなきゃいけないけど、ボクのお気に入りの場所だ。
なんたってここにはよくお宝が転がっているからね。
道の脇にある草むらに降りて辺りを探してみる。
たしか、この辺だったと思うんだけど…
…あ!見つけた!
少し遠くの方でキラリと光るなにかが落ちているのが見えた。お宝発見!とばかりにスキップしながら近づいていく。
「…わあ…」
思わず声が出た。近くで見たそれは、今まで見た中で一番綺麗な石だった。
表面はツルツルに磨かれて、太陽の光を反射してキラキラキラキラ輝いている。カラフルな光の粒が、視界いっぱいに広がった。
これは、ボクの一番の宝物にしよう!
持ち運びやすいことに、石には細長い鎖もついている。
鎖の部分をそっと口に咥えて、さあ、いざ我が巣へ!
と、その時だった。
「あら、あら、あら、まあ」
すぐ近くで声がして、今まさに羽ばたかんとして広げた羽根をビクリと震わせる。
ぴょんとひと跳びして体を声の方へと向けた。
そこには驚いた顔をした小さな女の人が立っていた。
口元に手を添えて、目をまあるくしてボクを見ている。白い髪、(おや、その顔に付いてるまんまるなキラキラも素敵なものだね)、少し曲がった背中。
気配から察するに、どうやらボクを攻撃しようとしているわけではないみたい。
固まって動かないボクを見て何を思ったか、彼女はやんわりした口調で話しかけてきた。
「あなたも、キラキラしたものが好きなのね」
ボクが咥えているものを指差してそう言った。
「うん、好きだよ」
ボクは一声カアと鳴く。
それを聞いて彼女は可笑しそうに微笑んだ。
とても、柔らかく、笑うひとだ。
「わたしもね、キラキラしたものがすごく好きなの。わたしたち、おんなじね」
「そう…なんだ」
そんなことを言われたのは初めてで、すごくびっくりした。だって、いつも周りのみんなには馬鹿にされていたから。
そんなものが好きなんて変わってる、とか。
そんなガラクタなんの意味もない、とか。
そんなことばかりしてるからお前はダメなんだ、とか。
ほんとはね、ボクの“好き”を認めてほしかったよ。
ほんとはね、ボクの“好き”を誰かと一緒にやりたいよ。
光の粒がボクの視界を覆っている。
さっきのキラキラとは少し違う。輪郭が柔らかくなってとっても優しいキラキラだ。
こんなキラキラも、あるんだね。
❄︎
ところで彼女は一体どうしてボクを呼び止めたんだろうか?
彼女もここで、キラキラを探していたのだろうか?
ボクの口にあるキラキラを見る彼女の瞳が、なんだかとっても優しかったから。
「これは、あなたの大切な宝物なの?」
❄︎
ボクはキラキラしたものが好きなんだ。
それはボクにとってとても大切なもの。
誰になんて言われたって大事にしたいもの。
大事な大事な、宝物。
❄︎
「あら、あら、また会ったわね」
「うん!また、そのキラキラ、見せてくれない?」
キャンドルを集めるのがこの世界での私の仕事らしい。
❄︎
目が覚めると孤独だった。
暗く寂れた場所にいた。どこからともなく風が吹いて、身体を温めるマントも持たない私は小さく身震いした。
こんな所にひとり取り残されたような、しかし確かな意志を持ってここにいるような、そんな不思議な感覚だった。
周りを見回す。太陽の光もなく薄暗い景色の中、ひとつだけ光り輝くゲートがあることに気が付いた。
誘い込まれるようにそこを目指して歩き出す。足取りは案外軽かった。
この先にはきっと希望がある。そう信じて私は一歩、光の中に足を踏み入れた。
❄︎
この世界にはたくさんの住人がいるらしい。
みなそれぞれ個性を持ち、好きに生き、自由に空を飛んでいる。
私にも行動を共にする仲間ができた。
気さくでおしゃべり好きなのが一人。
人懐っこくていつも一緒にいたがるのが一人。
自由奔放で神出鬼没なのが一人。
共に過ごした時間は私にとってかけがえのない大切な時間だ。
楽しい思い出も、悲しい思い出も、温かい思い出も、少し辛い思い出も、私の記憶の中に大事にしまってある。
そうして何年が経っただろう。
みな、この世界から旅立っていってしまった。
私の記憶の星座盤には、今も変わらぬ姿で君はそこにいるのに。
私はまた、孤独になった。
❄︎
ひとりで生きるというのも案外楽しいものである。
この世界は美しい。
壮大な景色、気持ちの良い風、鳥の囀り。
風を受けながら自由に空を飛ぶ。川のせせらぎを聞きながらのんびりと川辺を歩く。
何にも縛られず、何も恐れない。穏やかな時間がここには流れている。
そうして私は今日も駆け回る。
まだ知らないあなたに出会うため。
君の心に火を灯すため。両手いっぱいにキャンドルを抱えて。
「Sky 星を紡ぐ子どもたち」より
飼っていたハムスターが死んだ。
夕方帰宅すると、巣箱から半分ほど顔を出したままぐったりと動かなくなっている姿を見つけた。
心臓がヒュッと縮こまって耳の奥でドクドクと脈打つ。
寝ているだけかもしれないと思いたくて、そっと体を撫でてみる。…ああ、冷たい。
❄︎
名前はグリという。あの「グリとグラ」の絵本からとって名付けた。体は大きいくせに臆病な性格で、抱っこが嫌いだった。いつも餌に釣られて手のひらに乗せられてはすぐにスルスルと抜け出して、自由になった体で嬉々として目の前に広がった未知の世界を探検するのだ。
思い出すのは君のあたたかさ、可愛さ。夜、君が目を覚ましてから一緒に遊んだよね。
それらがどれだけ私を癒したか、君はきっと知らないだろう。
❄︎
いつも嫌がって抱かせてくれない君が、今は大人しく手の中に収まっている。冷たい体を抱きながら(もうこれで、生き物を飼うのはやめにしよう)と思った。
たった3年足らず。
だけど私は大切に持ってる。
君との『たくさんの想い出』。