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11/30/2024, 7:21:46 AM

朝、天気予報を見て気温を確認する。
今日は一日冷えそうだ。

コートを羽織ってマフラーを巻く。
手袋をはめて鞄を持つ。

玄関の扉を開けると冷たい空気が一気に額を頬を通り抜けた。

数歩歩いて深呼吸。
鼻から冷たい空気を吸い込んで、空へ向けてふうと吐く。白い息がもくもくと空へ散ってゆく。

「あ。冬のにおい」

この瞬間が、とても好きだ。
ツンとした鼻の奥、冬の訪れを知らせるにおいがする。
冷たくて、切なくて、どこか懐かしくて、心臓がぎゅうとなるような。

ひんやりとした風に目を瞬かせながら、私はしばらくの間『冬のはじまり』を楽しんだ。

11/29/2024, 12:06:15 AM

「もう終わり」

頭上でそんな声が聞こえる。
僕は微睡の中にいて、まだこの温もりに浸っていたくて、聞こえないふりをする。

「もう終わりだってば。足が痺れてきた」

肩に手を置かれ、ゆさゆさと揺さぶられる。
僕の腕の中にぎゅうと抱かれたあなたの身体ごとゆらゆらと揺れる。

「いつまでくっついてるつもり?は、な、れ、ろ…!」

依然として離れる気配のない僕に痺れを切らし、あなたは肩に置いた手にさらに力を込める。
ぐぐっと押され、身体を引き剥がされる。
僕は決して引き離されまいとして、力を込める。

まだ離れたくない。
あたたかいあなたの存在をまだ感じていたい。
そばにいると安心するんだ。
触れていると満たされるんだ。

「聞いてる?」
「………まだ…もう少し、このままでいて」

思ったよりも情けない声が出た。
頭上からはふふ、と堪えきれずに漏れたような笑い声が聞こえる。
きっとあなたは呆れた顔で、でも少し嬉しそうな顔で、もう少しだけ、僕のわがままを許してくれるんだろう。

このしあわせな時間をまだ、『終わりにしないで』。

11/28/2024, 7:04:00 AM

複雑で難解でどうしようもなく鬱陶しい。
けれどどうしたって手放せないもの。


『愛情』

11/26/2024, 11:37:17 AM

数年ぶりに君に会った。
君は相変わらず天真爛漫で、よく笑い、楽しそうに話した。
会わなかった何年かの空白を全く感じさせないようなその様子に、私は随分安堵した。

会って話をしたのはほんの数分だった。
君は再会を喜び、私ののんびりとした相槌にきらきらと笑い、それじゃあね、と言ってお別れをした。

唐突に現れては風のように去っていった。
そうだ、君はそんな人だったね。
その距離感が私にとっては心地よかったことをじんわりと思い出した。

君がいなくなって私はまたポツリと一人残される。
静かに佇んで君が残していった余韻を楽しむ。

別れ際君は、またゆっくり話をしようと言った。
君は嘘をつかない。
きっと近々、必ず会いに来てくれるのだろう。

まだ、心臓がドキドキしている。
ほてった頬を冷ますように、私はゆっくりと歩き出した。



『微熱』

「Sky 星を紡ぐ子どもたち」より

11/25/2024, 12:53:52 PM

これまでずっと、暗い穴に閉じこもって世界の全てから自分を守ってきた。
嘲りや罵りから身を守り、愛情や助けの手からも逃げるように生きてきた。
愛することを怖がって、愛されることも拒絶してきた。
希望に縋って諦めない努力をすることがどうしても出来なかった。
一度の傷が重く響いた。強い雨風には目を瞑った。

ずっと、狭い世界で生きてきた。

本当は気に掛けてくれて嬉しかった。
本当は大好きって伝えたかった。

全てを跳ね除けるのは心が痛いよ。
でも期待するのが怖いんだ。
ひとりで悲しみに耐えるのはもう嫌だよ。
でもそうした方がまた傷付かなくて済むんだ。

もうこれ以上、心をかき乱されたくないんだ。

自分を守るふりをして周りを傷つけていることにも気付かずに、聞こえる全てを雑音にして耳を塞いできた。

私は暗闇に生きていた。
そうすることしか、できなかった。

❄︎

うん。そっか。
辛かったね。悲しい思いもたくさんしたね。
優しくされて裏切られるのはしんどいよね。
がんばっても報われないことの方が多いよね。
完璧ばかり求められて、疲れちゃったよね。
ここまでよく、歩いてきたね。

信じることって怖いよね。
注いだ愛情や信頼が、いつでも同じ量だけ返ってくるわけじゃない。
心が読めるわけじゃないからさ、分からないこともたくさんあって、分からないことが怖いよね。
この人なら絶対大丈夫って、自分の感覚だけじゃなくて確たる証拠がほしいよね。
でもそんなものはどこにも存在しない。
みんなはどうやって人を信じているんだろうね?
だれかに聞いてみたいね。
きっといつか、わかるといいね。

ね。あのね。
あんまり焦って走ろうとしなくていいんだよ。
明るい光が眩しすぎるときは目を瞑っていいんだ。
大きな音で耳が痛いときは塞いでいいんだよ。

ぼくはきみを前にも後ろにも引っ張りはしない。
きみの背中に寄り添って、その温もりを感じていたいんだ。

ただ、そうしていたいんだ。ずっと、ずっとね。

❄︎

本当は、信じたい。
本当は、大好きって言いたい。
本当は、差し出された手をとって一緒に歩きたい。

私のことも、信じていてほしい。

あなたに。

❄︎

足元はおぼつかない。
傷は重く痛み、心は変わらず平穏を求めている。
明るいところはまだ怖い。雑音も聞こえる。

でもあなたに会いたい。
あなたの声が聞きたい。
あなたと、ゆっくり話をしてみたい。

伝えなければ伝わらない。
伝わらなければそれは無と同義だ。
この気持ちは無かったことにしたくない。

今はまだ、細く差し込む光でいい。
いつかはきっと、あの太陽の下で。



『太陽の下で』

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