まず、先に謝らせてほしい。すまない。治せない病だったからと言って、君を1人置いていってしまったこと。最後まで、君の手を握ってあげられなかったこと。本当にすまなかった。私は大馬鹿野郎だ。だけど、そんな罪悪感を残していても、君が私の葬儀の時、泣いてくれた事がこの上ないほど嬉しかったんだ。おそらく、何千年経とうとその時の君を忘れる事ないだろう。そして、そんな事があった今年も、もう終わろうとしている。君はそんなの興味無しげに眠っているようだが。........ほら、もう年が明けるよ。この時位関心を寄越してもいいじゃないか。........全く、変わらないな、君は。まぁ、ひとまず、君は来年も君のままで居てくれ。それが今の私の願いだ。君は、一体どんな願いを抱えているのかな?私関係だったら、嬉しいのだけど。......あ、ほら、年も開けたよ。......良いお年を。
死者病棟。この病棟は、医者も手の施しようがない状態の者集まっている。勿論、医者でも延命治療しかする事が出来ないため、死ぬ者がほとんどだ。そこに、私の幼なじみが入院している。
私の幼なじみはいつも元気で、小さい頃はよく遊んでくれたものだ。
.......だが、高校に入学した途端、幼なじみの病気が判明した。それは、【心血失少症】。
とある時に体の中にある血液が不自然に不足し、最後は干からびて死んでいく。不足する条件はまだ明らかになっていないが、怪我をした時、出血の量が異様に多い場合、この病気だと判明される。その病気に、幼なじみはかかってしまったのだ。それで入院した幼なじみは、今は元気に過ごしている。今もこの病棟にいる。
ガララ。 扉を開ける音が開く。
「.....元気?」
「.....ん.....?あ!深冬!来てくれたんだ!」
幼なじみは元気そうだった。私が来て嬉しそうにする。
「うん。心配だしね。」
「そっか!あ、なんか食べる?って言ってもお見舞いの果物しかないけど....」
幼なじみはテーブルに乗せられた果物の籠を指差しながら言う。熟している物がほとんどで、美味しそうだった。
「いや、いいよ。要は食べる?食べるなら剥いてあげるけど。」
「.....んー.....いや、いいよ。お昼ご飯食べたばっかだからお腹いっぱいなんだ。」
「そっか。」
そういい、要は窓の外を見る。今日はちゃんと食べてくれたみたいで良かった。最近は痩せてばっかで心配だったから。
「......春だねぇ.....」
「うん。桜も満開。」
今は春。病棟の窓からは満開の桜が綺麗に見える。.....綺麗.....
「......さて、私はそろそろ帰るよ。死んでないか確認出来たしね。」
「え!?深冬それ目的で来たの!?」
驚いたような目をして叫ぶ。こんな調子ならまだまだ生きるな。と思いながら私は適当に返事をし、部屋から出ていった。
.....だけど、その年の夏。要の母親から突然電話がかかってきた。内容は、要が病気で死んだ、葬式に参加して欲しい。という内容だった。
急にそんな事を聞いて、私は唖然とした。人間、驚きすぎると声も出なくなると、その時初めて知った。なんで?要は一昨日まで本当に元気だった。いつもと変わらない声色、向日葵の様な笑顔。小さい頃と変わることのない、要だった。なのに、何故?しばらく、そんな事を考えていた。だが、段々と現実が見えてくると、色んな感情が見えてきた。
「.....ふ、っ.....うぐ.....ぅ.....」
いつの間にか、大粒の涙が流れてくる。ずっと仲良くしてくれた要。一人でいた時も、ずっと私と一緒にいてくれた。そんな要は、もういない。優しい、私の幼なじみで居てくれた彼は。
「.....ご、めん.....ごめんなさいぃ.....素直になれなくて......分かってあげられなくてぇ.....」
葬式当日、献花の時。私の順番が来た。一人一人、要への感謝や暖かい言葉を、花と一緒にに贈っていた。
「......要....」
死装束を纏った要は、優しいいつもの顔で、ただ眠っているだけの様にも見えた。
「.....ごめんね、要。今まで楽しかったよ。......あっちでも、楽しくね。」
そういい、私は白いカスミソウを供えた。
【白いカスミソウの花言葉】
・清らかな心
・無邪気
・幸福
・感謝
・親切
雨。雨と言っても、強く降っている雨ではなく、穏やかな雨。聞いていると心地よく感じてくる程度の。今は放課後。いつもはあんなに騒々しい教室も、今は誰も居なく、ただ雨音が響いている。
面倒くさい。委員会の仕事を無所属の俺に押し付けてきやがって。おかげで雨も降ってきたじゃないか。傘持ってきてないぞ。
「......はぁ。」
文句を思ったって、状況が変わるわけでも無い。こんな事思っている暇があるなら仕事に集中しよう。
カリカリカリカリ
書く音と雨音が混ざる。
「......あ、間違えた。」
書く文字を間違い、修正テープで消す。そうして間違いを直す。それが何度も続き、段々と完全下校時刻が迫ってくる。やばい。今日までに終わらせないとまた金取られる。焦燥感に駆られながらも、手早く作業を進める。
ようやく終わった頃には、完全下校時刻には間に合っていたものの、辺りは暗くなって、雨もいつの間にか勢いを増していた。......帰れるかな。いや、これじゃあ無理だろう。学校の傘を借りるか.....
はぁ。なんで俺はこんなにも運が悪いのか。虐められるわ雨は降るわ仕事を押し付けられるわで、もう散々だ。.....辛い。......こんな醜い気持ちも、晴れてしまったらいいのに。
辛い。何もかも。
同情なんか要らない。お前に何が分かるの?話しかけてこないでよ。可哀想とでも思ってるの?気持ち1つも考えてないくせに。
1人にして。
「......任務完了。」
私は前にある血塗れの肉塊を見ながら言う。
私は殺し屋だ。殺しをしながら生き永らえる。それ以外はただの人間。高校にも通ってるし、親は居ないもののまぁまぁ裕福な暮らしをしているし。.....ただ、少し人肌寂しいと思う事はあるけどな。
「.....帰るか。」
時間を見ればもう日が登りかけている。学校に遅れる前に家に戻らなくては。
そして、学校。いつも通りつまらない。どうせなら居眠りでもしてしまおうか。次は昼休みだし、別にいいだろう。そうして私は目を閉じた。
「......お、おーい.....」
目が覚めた頃は、誰かが私に向かって呼びかけていた。顔は伏せていたため、相手の顔は見えない。......はぁ、めんどくさいけど、起きるか。
「......何。」
顔を上げる。その瞬間、一瞬体が固まる。何故なら目の前にいる少女はエメラルドグリーンの瞳の色をしていたからだ。それもただのエメラルドグリーンではない。何だかその瞳は澄んでいて、宝石の様だった。私みたいな、どす黒い赤の瞳ではなく。
「.....」
「......っあ.....ご、ごめんなさい。目の色、気持ち悪いですよね......寝起きにこんなの見せて、本当にすみません....」
そういいながら、少女は謝る。なんで謝ってるんだ?私より綺麗で澄んでいて、むしろ自慢になる事なんじゃ.....
「......いや、別に気持ち悪いとか思ってないけど。」
「あ......そ、そうですか.....すみません。」
謝ってばっかだな。にしても、私以外に特殊な瞳の色している人居たんだ。.....いいなぁ。こんな色に生まれたかった。
.......悪魔の子とか言われずに。
「......私より綺麗でしょ。」
「え、はぇ.....?」
.....驚く事か?
「で、用は?」
「あ.....そ、そうだ.....!い、一緒に、お昼ご飯でもどうかなって.....!」
......ん?この子私誘ってんのか?馬鹿なの?......でも、少しだけならいいかな。
「......うん。いいよ。」
「ほ、ほんと....!?あ、ありがとう!じゃあ行こう!」
「うん。」
......澄んだ瞳は、本当に綺麗だ。