Lacryma

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7/23/2025, 2:11:05 PM

ある日、書庫を整理していた私は
大切に保管されたひとつの日記に出会った
裏表紙を見ると、祖母の名前が記されていた
一体何が書いてあるのだろう
人の日記を覗き見るなど趣味が悪いと思ったが
今は寝たきりになってしまった彼女の生き様を
その人生の一欠片を、少しだけ知りたいと思ったのだ

『毎晩同じ夢を見るのです
お姫様と騎士様の、報われぬ恋物語の夢でした
二人の想いは決して許されないものでしたが
秘密裏に逢瀬を交わし、愛を誓い合っていました
しかし、とある敵国との大戦で
騎士様は命を落としてしまうのです

私は夢の中で、そのお姫様として生きていました
彼が呼ぶ私の名は、いつだって花の名前でした
おそらくそれがお姫様の名前だったのでしょう
そして私は彼を、ある星の名で呼ぶのです』

『その日、私はカフェに行きました
街の一角にある、小さいながらもお洒落なカフェです
そこで、一人の老紳士に出会いました
私はその人を見て、思わず目が離せなくなりました
彼の横顔に、騎士様の面影が重なった気がしたのです』

『私は思わず、騎士様の名を呼びました
夢の中で、いつも呼んでいたあの星の名を
多くの人が行き交う街の中
老紳士は真っ直ぐ私の目を見たのです

彼は少しの間、私を見つめていました
そして私は確かに感じたのです
夢の中で幾度となく感じた、あの優しい眼差しを』

『それから私たちは言葉を交わすようになりました
彼はいつも私の話を笑顔で聞いてくれました
いつしか私は夢の話をするようになりました
しかし彼はその話に深く触れることはなく
ただ穏やかに微笑みを浮かべるだけでした』

『ある日、私は彼に尋ねてしまったのです
「貴方は、あの人なのですか」
そして、返事を待たぬままこう言いました
「もしあの人ならば
今からでも貴方の側にいたいのです」』

『それから私は何度もカフェを訪れました
しかし、彼はもう来ませんでした
ある日、私がいつもの席に腰掛けたとき
店員が私に手紙を差し出したのです
「いつも貴女と親しげにお話されていたご老人が
貴女が来たら渡すようにと」
そして一輪の花を添えられました
それは、夢の中で彼が私を呼んでいたあの花でした』

『店員にお礼を言って私は手紙を読みました
手紙には、こう書かれていました

"貴女が私の名を呼んだとき
私は驚きで胸がいっぱいになりました
遠い昔に愛した人とまた会うことは
きっとできないだろうと思っていたからです
貴女と再び出会えて本当に幸せでした
けれど私はもう老いぼれの身
貴女の隣を歩くには、少し急ぎすぎてしまったようです
だから、これからはもう私を忘れて
どうか幸せに生きてください"

私は涙を堪えることができませんでした
あの時私が側にいたいと言わなければ
貴方はまだ私の隣で
優しく微笑んでくれたのでしょうか
その日から私は、あの夢を見ることは
もう二度とありませんでした』

私は日記を閉じ、その場に立ち尽くしてしまった
とても幻想的な話だが
私にはただの作り話だとは思えなかった
なぜなら手紙の最後には
古い手紙と一輪の花が添えられていたから

「次の人生ではどうか、次こそは
二人が側にいられますように」
日記帳を抱きしめ、その場に座り込む
涙が落ちたことに気づいたのは
それから少し後のことだった

7/23/2025, 9:59:34 AM

貴女を救えなかった

私が馬を走らせてきた頃には

貴女はもう静かに目を閉じていた

最期に二人で星を見たいという願いさえ

叶えてあげることができなかった

もう一度貴女の笑顔を見たかった

幸せになれなかった貴女に

せめてもの弔いに

輝く星々に届かない祈りを捧げる

またいつか貴女と出会えたら

その時はきっと、生涯側に

7/21/2025, 9:05:21 AM

遠い昔、花の国と呼ばれるこの国には国王がいた

その人は強く賢く聡明な女性で

花々の持つ純粋な美しさを深く愛していたそうだ

そしてそれは、隣国の国王も同様だった

彼の国は大地の国と呼ばれていて

穏やかで堅実で、安寧を愛する国王の治める国だった

二人は互いの優しさに触れ、惹かれ合っていた

人々が幸せでいられる国を夢見ていた彼らを

双方の国民も心から祝福した

しかし、そんな日々は長くは続かなかった

歴史的な戦争への参加を余儀なくされた両国は

あろうことか敵対関係として命を奪い合うことになった

そして二人の国王も、最期には互いの心臓を貫いた

どんなに心苦しかったことだろう

愛した人をその手にかける苦しみなど

私に想像できるはずもない

それでもせめて忘れないでいたいのだ

彼らの生きた証、その軌跡を

今を生きる人々が、彼らの痛みを忘れても

7/10/2025, 4:21:10 PM

私は冒険することが好きだった

古代樹の森、海底の都、大空の王国

どの世界も本当に綺麗で美しくて

どんな険しい道だって乗り越えることができた

この命が続く限り

ずっと世界を見て回ることができたら

こんなに幸せなことはないと思えるほどに

でも気づいてしまった

あんなに世界が輝いて見えたのは

隣に貴方がいたからだったのだと

私に見える世界はもう輝いていない

酷く色褪せて輝きを失って

きっともう二度と戻ることはない

6/25/2025, 2:11:51 PM

我ら魔法使いの在り方を巡る魔法大戦の最中

貴方は氷の魔法に当てられて氷塊となった

まだ魔法を使うことができなくて

恐怖に竦み動けなくなった私を庇ったせいだった

ずっと後悔していた

私がいなければ、貴方をこんな姿には

でも、やっと魔法を使えるようになったんだ

それで最初の魔法は貴方に使うと決めていた

小さな愛の魔法、身代わりの魔法を

これでやっと貴方を解放できる

私は貴方の頬に触れて目を閉じた

少しずつ貴方の氷が溶けて体温が戻っていく

それと同時に、私の手足は徐々に氷に覆われていく

思っていたより寒くない

貴方がいない方がよほど寒かったもの

薄れゆく意識の中、私はあの日のことを思い出す

氷に覆われる寸前、貴方は何かを囁いていた

私はその言葉をずっと知りたかった

願わくば、貴方が目を覚ましたその時

最期に囁いていた言葉を教えてほしい

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