もし、もし願いが叶うのならば
私も皆と同じように
雲から溢れる美しい光の合間を縫って
爽涼たる風をこの身に受けながら
翼を大きく広げて自由に飛んでみたい
私の折れ爛れた飛べない翼では
そんな願いは、決して叶わないけれど
ずっと、彼らの舞台に憧れていた
この町に時折訪れる劇団の、喜劇の舞台に
いつの頃からか、ある夢を抱くようになった
私も、彼らの物語の一人になりたいと
その頃から一人、演劇の練習をして
次に彼らが訪れた時、座長に話をするつもりだった
「三日後に、最後の舞台が公演される」
その知らせを受けたのは突然のことだった
最後って、なんのこと?
一瞬の内に頭が真っ白になって
私はその理由を聞くことができなかった
三日後、知らせ通りに最後の舞台が公演された
いつもと何も変わらない、喜劇の舞台
でも、私にとっては…
公演が終わり、観客が誰もいなくなった後も
私はずっと動けないでいた
この席を立ったら、物語が終わってしまう気がして
しばらくそうしていると、舞台から声がした
「やぁ、お客さん、暗い顔をしてどうしたんだい?」
見上げると、座長が私に声をかけてきていた
私は何も言えなかった
何を言おうとしても、涙が零れそうで
「最後の物語は、貴女に」
ふいに座長がそう言った
私は顔をあげ、彼を見た
「私たちの物語はいつだって幸せな喜劇だった」
スポットライトを浴びている彼は、優しく笑う
「貴女が笑ってくれないと、結末を向かえられない
私たちの物語を、笑顔で終わらせてくれるかい?」
その言葉を聞いた瞬間、私は無意識に頷いていた
今までの喜劇を脳裏に浮かべながら
私は席を立ち、笑顔を作って彼らに拍手を送った
「これにて終幕、長い間、誠にありがとうございました」
座長は私に恭しく礼をする
幕が降り、彼ら劇団の終わりを告げる
カーテンコールの時間はない
視界がぼやけて、もうろくに前も観れないけれど
それでも私はずっと、笑顔で拍手を送り続けた
天を仰ぎ手を伸ばす
美しい黄昏に乞うように
あの空に吸い込まれてしまえたら
どんなによかっただろう
壊れ、色を失っていくこの世界で
もう一度、息をすることができたら
私は地に膝をつき懸命に祈った
こんなこと、意味がないことだと知りながら
わかっているの
ここに貴方は来ない
私がどれだけ願っても
貴方はあの子を追いかけるって
苦しさは覚悟していたつもりだったけど
それでも、耐えられないものなのね
月が照らす教会で、私は神に祈った
ずっと、貴方を想っていた
私を選んでほしかった
この想いは届かないけれど
せめて、この涙が乾くまで
どうか、私の消えゆく願いを聞いてください
窓から射し込む一筋の光が
優しく微笑む女神の彫像を照らしていた
友よ、どうして
一体どうして、こんなことをしたんだ
彼に問いかけるが返事はない
酷いやけどを負っている彼を抱き起こす
私の心はただ焦るばかりで
疑問を投げかけることしかできなかった
辺り一面は火の海だ
自らが燃えようと意に介さず
彼が火を放ち続けた理由は明白だ
捕らわれた私を助けに来てくれたのだろう
だが、私が助かったとて
どうして君を失って、無事であったと言えようか
彼は体温を失っていく
待ってくれ、まだ眠るには早い
でも、あぁ、それでも逝ってしまうのなら
永遠の眠りにつく前に、どうか最期に聞いてくれ
君の友人であれたことは私の誇りだ
ずっと感謝しているよ