ずっと、彼らの舞台に憧れていた
この町に時折訪れる劇団の、喜劇の舞台に
いつの頃からか、ある夢を抱くようになった
私も、彼らの物語の一人になりたいと
その頃から一人、演劇の練習をして
次に彼らが訪れた時、座長に話をするつもりだった
「三日後に、最後の舞台が公演される」
その知らせを受けたのは突然のことだった
最後って、なんのこと?
一瞬の内に頭が真っ白になって
私はその理由を聞くことができなかった
三日後、知らせ通りに最後の舞台が公演された
いつもと何も変わらない、喜劇の舞台
でも、私にとっては…
公演が終わり、観客が誰もいなくなった後も
私はずっと動けないでいた
この席を立ったら、物語が終わってしまう気がして
しばらくそうしていると、舞台から声がした
「やぁ、お客さん、暗い顔をしてどうしたんだい?」
見上げると、座長が私に声をかけてきていた
私は何も言えなかった
何を言おうとしても、涙が零れそうで
「最後の物語は、貴女に」
ふいに座長がそう言った
私は顔をあげ、彼を見た
「私たちの物語はいつだって幸せな喜劇だった」
スポットライトを浴びている彼は、優しく笑う
「貴女が笑ってくれないと、結末を向かえられない
私たちの物語を、笑顔で終わらせてくれるかい?」
その言葉を聞いた瞬間、私は無意識に頷いていた
今までの喜劇を脳裏に浮かべながら
私は席を立ち、笑顔を作って彼らに拍手を送った
「これにて終幕、長い間、誠にありがとうございました」
座長は私に恭しく礼をする
幕が降り、彼ら劇団の終わりを告げる
カーテンコールの時間はない
視界がぼやけて、もうろくに前も観れないけれど
それでも私はずっと、笑顔で拍手を送り続けた
11/9/2024, 1:09:39 PM