何も見えず、何も聞こえない
暗がりの中で、ただ静かに目を閉じている
煌々たる光が生む眩しさに
私は恐れ逃げ出し
安寧と静寂を守る闇夜に隠れ
全てが過ぎ去るのを待っていた
ただ息をすることが、酷く苦しかった
しかし、いかに残酷であろうと
人生とはきっと儚く美しい
足元を微光が照らした
この暗がりを抜け
今度は光の下で生きねばならない
刹那の憩いの中で
世界を照らす光の暖かさに
一体どれほど焦がれたことか
全てを隠し安寧をもたらす闇の静穏たるを
一体どれほど望んだことか
貴方が好きだった紅茶の香りがする
一体誰がこんな悪質な悪戯をしているの?
今さら思い出させるなんて残酷ね
この香りを辿っていっても
貴方に会えることはないのだから
ずっと独りだった。友達になってくれてありがとう
貴女はいつも私に言ってくれた
だから、つい目が眩んでしまった
お姫様を夢見た貴女に、少しでも喜んでほしくて
私は貴族の宝石に手を出してしまった
すぐに兵に見つかり、隙をついて走り出す
ごめんなさい、すぐに返すから
そう思った瞬間、腹部に鋭い痛みが走った
私は射られたのだ
宝石の持ち主は、私のもとに来て言った
卑しい盗人よ、顔を見せなさい
私は彼女の顔を見る
そこにいたのは、私の友達だった
あぁ貴女、私といたのは貴族のお遊びだったのか
言いたいことはたくさんあったが、力が抜けていく
それでも私は、声を絞り出して言った
ごめんなさい、私の、大切な友達
薄れゆく意識の中、最期に見えたのは
私の名前を泣き叫びながら駆け寄ってくる
私のよく知る、友達の姿だった
さようなら、私の光よ、愛した人よ
貴方はそう言って微笑んで
静かに私に背を向けた
さようなら、愛しい人。きっと、またいつか
そう返事をして、私も貴方に背を向ける
だけど彼と違って
私は歩き出すことができなかった
きっといつかなど、ないのだから
私たちはここで終わるのだから
私はただ、苦しみを吐き出すように
行かないでと声にした
届かない言葉に嗤い、涙を拭いた
もう立ち尽くしている時間はない
たとえどのような結末になろうと
最期は笑って、この悲劇を終えるのだ
もうじゅうぶん時間は稼いだ
皆は今頃峠を越えた頃だろう
追手が彼らに追いつくなど無理な話だ
私は息をつき、自らの足を見やった
きっともう、故郷に帰ることはできない
冷たい風が髪を揺らす
そういえば、衣替えの時期であった
足止めを遂行し未練などないと思っていたが
欲を言えば、美しく雪と舞う貴女を
たった一目でも、この目で見てみたかった
この願いはもう決して叶わないけれど
貴女が生きて、時折でも私を思い出してくれるなら
騎士としてそれ以上に望むことはないだろう
そのはずなのに
欲深い私は最期まで願ってしまう
もし、来世があるのだとしたら
その時はきっと平和な世で、貴女の側に