「どうしてこんなこと」
彼女が私に問いかける
森と対話し、自然と生きる森の民
私は彼らを森の奥深くへ追いやり
二度と我らの王国に関わるなと忠告をした
彼女は私を鋭い眼差しで睨み付けた
「裏切ったのね。王国も、貴方も」
私は心が引き裂かれる思いだった
『異端の民を根絶やしにせよ』
国王の命令から彼らを守るには
彼らに身を隠してもらうしか方法はない
長い間親交を深めた末の裏切りだ
私は彼らに背を向けた
真実を話すことはできない
たとえ恨まれたとて
私は彼らに、そして貴女に生きてほしかった
それが、私たちの願いだったのだから
彼は毎日この教会に足を運んで
人々のために祈りを捧げている
神様
もし本当に貴方が存在していて
私たちに救いをくださるというならば
心優しく敬虔な彼の祈りは
高く高く天へ届いて
貴方様もご存知のはずでしょう
どうして彼に救いをくださらないのですか
祈るだけの愚か者とお思いですか
もし本当に貴方が世界を創ったのならば
祈る以外のすべてを彼から奪ったのは
他でもない貴方だというのに
貴方が吹かしている煙の匂いを感じる
こんなにも近くにいるのに
私の心は不安に支配されているの
あのカーテンが掛かったとき
貴方が消えてしまう気がして
「本当に愛していたの。心から」
貴女はそう言って目を伏せた
私は言葉を探していた
きっと慰めの言葉など求めていないだろう
そうして何も言えないでいるうちに
貴女は意を決したように立ち上がった
「そして今も、彼を心から愛しているわ」
その目は覚悟と慈愛を帯びていた
あぁ、貴女はまた行ってしまうのか
彼を追いかけて、私を置いて
「そうか。彼を探しに行くんだね」
その次の言葉を言えなかった
貴女は私に感謝を告げて
また私から去ってしまった
私が迷っているうちに
貴女たちは私の手の届かない場所へ行ってしまう
意気地なしの私は追いかけることもしないで
それだから私は
きっとこの命を終えるまで
あなたの涙の理由にはなれないだろう
ここまで休まず歩みを進めてきた
その反動か、視界が不安定になり体も重い
私は馬から荷を下ろし
束の間の休息を取ることにした
こんなことをしている暇はないのに
早く貴方を迎えに行かなければならないのに
考えれば考えるほど意識が朦朧として
気づけば東の空から光が射し込んでいた
眠ってしまっていたのか
休んでいる暇ない
闇に攫われた貴方を
救いに行かなければならないのだから
貴方がいつも私を守ってくれたように
今度は私も貴方を助けたい
私は薄れゆく記憶を手繰り寄せ
彼方に向かって再び歩き始めた