惰眠

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6/21/2023, 3:08:40 PM

好きな色

 のどけし春の八十八夜。宵の風に乗って、揺蕩う夢見草。君に戸惑う僕みたい。
 君の瞳のなかで、静かに芽吹く春が好き。君の見ている春の色が好き。澄み渡った蒼穹に、ほころびるようにひらりと咲かせる花々。冬の名残の凍て解けが、おひさまの光を浴びて輝いている。
 僕の目ではみることの出来ないその景色が、確かに広がっていたんだ。

――八十八夜の別れ霜。
 もうすぐお別れの時間だね。今日、この別れ霜が降りきったら、次の春までさよならなんだ。
 季節が巡れば、僕たちはまた会えるかな。
 僕は君を忘れないけれど、君は僕を忘れないでいてくれる?

 ……そっか、嬉しいな。また会おうね、きっとだよ。
 
 ――僕の好きな色は、君の瞳の春の色。
 君が教えてくれた、たった一つの世界の色。

6/18/2023, 4:50:34 PM

落下

 落ちていく。
 深淵に吸い込まれるように、辺りいちめんの闇に飲み込まれるように、黒に侵食されていくように、落ちていく。

 今の時間も、左も右も、なにも分からない空間のなか。
ただ決して動かないこの身体が、下へ、下へと落ちていく。
 まだ光は見えない。
 けれどきっと君は近くにいて、僕を待っている。信じているよ。

 地獄の底で嘆く君を、天上へ連れて行ってあげる。
 君と僕が、今度こそ幸せになれる場所。
 君と僕が、今度こそ愛を誓える場所。
 君と僕が、今度こそ生涯を共にできる場所。
 だから、まだ待っていてね。

 ――駄目。僕が隣にいないからって泣かないで。
 僕たちを繋ぐその糸は、まだ切れていないはずなんだ。きっともうすぐ、辿りつくはずなんだ。

 啜り泣く君の声が聞こえてきて、僕は早くその涙を拭ってあげたいと思った。
 今度こそ離さないって、伝えたいと思った。
 君のもとへ落ちてきたら、全力で抱きしめてね。

3/27/2023, 8:17:18 PM

My Heart

桜の木の下に埋まっている。
わたしのココロはそこにある。

桜の木の下で、君に想いを告げた。
君は笑って、わたしを地面へ押し倒した。
どうしてか、君はわたしに土を被せていた。

春は、わたしにだけ来なかった。

わたしのココロを、土越しに誰かが踏みしめて
「はいチーズ」という声の後にシャッター音が鳴る。

きっとここは一面、春景色。

桜の木の下で眠る、わたしのココロ。
出会いと別れの春の下で、静かに、静かに眠っている。