好きな色
のどけし春の八十八夜。宵の風に乗って、揺蕩う夢見草。君に戸惑う僕みたい。
君の瞳のなかで、静かに芽吹く春が好き。君の見ている春の色が好き。澄み渡った蒼穹に、ほころびるようにひらりと咲かせる花々。冬の名残の凍て解けが、おひさまの光を浴びて輝いている。
僕の目ではみることの出来ないその景色が、確かに広がっていたんだ。
――八十八夜の別れ霜。
もうすぐお別れの時間だね。今日、この別れ霜が降りきったら、次の春までさよならなんだ。
季節が巡れば、僕たちはまた会えるかな。
僕は君を忘れないけれど、君は僕を忘れないでいてくれる?
……そっか、嬉しいな。また会おうね、きっとだよ。
――僕の好きな色は、君の瞳の春の色。
君が教えてくれた、たった一つの世界の色。
6/21/2023, 3:08:40 PM