はた織

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5/17/2025, 12:53:01 PM

 本当は、彼や彼女と性別を分けること自体、
 まだ見知らぬ世界だった。
 自然界には、性別なんてほぼ無いに等しい。
 わたしはわたし、あなたはあなた。
 同じ土から生まれたけれども、
 それぞれの美しさを持っている。
 互いに敬意を払って命を分け与えた。
 ありがとうもごめんなさいも言わなくていい。
 ただ同じ土の上で生きている、
 それだけの付き合いだ。
 多様性に満ちた生命が本当の世界だ。

 しかし、人間が無能にも科学を片手に、
 性別も個体も敬意も命も切断してしまった。
 科学の電気で本当の自分の性さえも焼き殺した。
 無様な燃えかすで出来た空虚な世界はもう目の前だ。
 死に損ないの焼骨がジタバタと暴れている。
 独りになりたくないと幼稚に泣き叫んで、
 わたしを呑み込もうとする。
 わたしはわたし、あなたはあなた。
 それだけでもう満足ではないのか、と
 わたしは股の血から溢れた火を哀れな灰に点けた。
 あらゆる生命の息吹を糧に燃える炎に包まれろ。
             (250517 まだ知らない世界)

5/16/2025, 12:41:21 PM

 本当に美しい仕事をしたいのなら、
 今の仕事を辞めなさい。
 親から離れなさい。
 家から出て行きなさい。
 住み慣れた土地から遠ざかりなさい。
 空想から目を覚ましなさい。
 自信が無い自分を抱きしめなさい。
 どこへ行っても同じだと悲観しないで歩きなさい。
 とにかく歩きなさい。
 自分の為すべき仕事を果たしなさい。
 読書が生み出す美を伝える為に顔を上げなさい。

 そう私を奮い立たせる言葉に応えるには、
 あと何回手放す勇気を持たねばならないのか。
 死んでも終わらないかもしれない。
                (250516 手放す勇気)

5/15/2025, 1:14:09 PM

 そうして照らされた自分の影が、白い光の中で孤立した。周囲の生温い暗闇は、今も私をしつこく包み込んでいる。後ろから抱擁するのは、生温かい闇か、凍てつく光か。
「お前は孤独なのだ、全くの孤独だ!」
 頭上から1890年代の青白い月が、声高に笑いかけた。
              (250515 光輝け、暗闇で)

5/14/2025, 1:11:27 PM

 生命溢れる酸素を吸っても、
 愚痴しか言わず、
 痰しか吐かず、
 騒音しか立てられず
 クソしか出せないのだったら、
 私が空気になって、
 無駄な呼吸を繰り返す人間の
 息の根を止めてやる。
                   (250514 酸素)

5/13/2025, 1:04:57 PM

 一族の終わりに弾く泡になろうとしているのか。
 または一族を根絶やしにする化け物になろうか。
 記憶の海底に潜む私のシロワニが彷徨っている。
 暴れる二頭の子どもを子宮に抱えて迷っている。
 産道から抜け出せるのは一頭だけだどうしよう。
 兄弟姉妹だろうが双子だろうが食べてしまおう。
 噛んで千切って咀嚼して嚥下すれば抜け出せる。
 憎き母の顔を拝みに出せ出せ出せ生まれてやる。
 子どもに育てられた子どもの記憶を滅ぼそうか。
 それともその記憶を泡沫の調べにして叫ぼうか。
 革命を起こそうと私のシロワニが水面に近づく。
 牙がぎらつく、怒りがうごめく、心が揺らめく。
 お前は未だに迷うのかと私のシロワニが問うた。
 私はまだ深海の底を見ていないと沈んでいった。
 冷ややかなる波間に白い鴎の羽ばたく姿が映る。
                 (250513 記憶の海)

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