はた織

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5/13/2025, 1:04:57 PM

 一族の終わりに弾く泡になろうとしているのか。
 または一族を根絶やしにする化け物になろうか。
 記憶の海底に潜む私のシロワニが彷徨っている。
 暴れる二頭の子どもを子宮に抱えて迷っている。
 産道から抜け出せるのは一頭だけだどうしよう。
 兄弟姉妹だろうが双子だろうが食べてしまおう。
 噛んで千切って咀嚼して嚥下すれば抜け出せる。
 憎き母の顔を拝みに出せ出せ出せ生まれてやる。
 子どもに育てられた子どもの記憶を滅ぼそうか。
 それともその記憶を泡沫の調べにして叫ぼうか。
 革命を起こそうと私のシロワニが水面に近づく。
 牙がぎらつく、怒りがうごめく、心が揺らめく。
 お前は未だに迷うのかと私のシロワニが問うた。
 私はまだ深海の底を見ていないと沈んでいった。
 冷ややかなる波間に白い鴎の羽ばたく姿が映る。
                 (250513 記憶の海)

5/12/2025, 1:07:25 PM

 ただ君だけが見てほしい。
 ぶつ切りにされた私の肉を。
 鍋の中で炒められた私の肉を。
 他の食材に煮込まれた私の肉を。
 塩胡椒香辛料をふられた私の肉を。
 どろどろのスープに崩れた私の肉を。
 洪水のように白い皿に溢れた私の肉を。
 そして飢えた私に貪り食われる私の肉を。
 これが孤独を舐め尽くす唯一の方法である。
                (250512 ただ君だけ)

5/11/2025, 1:10:50 PM

 『即興詩人』のように、舟の中で寝転んでみたいものだ。確か、海に通ずる洞窟の中で舟を浮かべていたはず。
 天井から滴り落ちる水滴を星々に見立てて、横になりながら眺めていたい。そうして、洞窟の奥へ奥へと向かって行き、入り口の光が徐々にか細くなっていくのを見届けていく。
 洞窟の中で舟に流されながら奥へ行く感覚は、どことなく胎内巡りを彷彿とさせる。ちょうど頭を先にして寝転がっているから、このまま産道へと導かれていくだろう。
 だが私は天邪鬼だ。もう人間の赤子なんかになりたくない。アヌンチャタごっこはおしまいだ。舟をひっくり返す。私は逆さまになった舟の中に閉じこもった。
 塩辛い湿気がこもる暗闇の中、揺れる波間から雫が飛び散っていく。ちゃぷちゃぷと水音が舟の中に響いていった。私の耳の中に、海水が入り込んでいく。海の静寂しか聞こえない。
 舟の板の隙間から白い輝きがちらつく。壁を隔てて見る景色は、濾過されたように綺麗だ。そう思った時には、私は水面の下に沈んでいた。もう何も見えない、何も聞こえない。
 逆さまの舟は、真っ暗な洞窟の奥へ奥へと流れていった。
                (250510 未来への船)

5/10/2025, 1:05:41 PM

 小さい頃に、森へ出かけた覚えがある。家族みんなで車に乗って外出したのだろう。だが、何故森に向かったのか覚えていない。そもそも、本当に森に行ったのか分かっていない。
 夢現か、木漏れ日さえもない暗鬱な森林の下、私がはっきりと覚えているのは、道路のそばにあった猫の死骸だ。毛皮は破れ、赤黒く変色した内臓から白い骨がのぞいている。車に轢かれたのだろうが、傷跡がどうも何かの歯形に見えた。
「ライオンに食べられたかもしれない」
 幼かった私は本気でそう信じた。私の中で、森に潜む恐ろしい生き物はライオンしかいなかったのだ。
 近くにいた母親に言ったかもしれないが、向こうの返事を覚えていない。父親もいたと思うが、本当にいたのか疑わしい。二人の姿形が霧かがって見えないし、声も聞こえない。だから余計に、私のむなしい声が静かな森の中で響いて、脳裏に焼きついてしまった。
 結局、猫を弔わなかった。広大な森林の影に覆われた猫の死骸は、やがて蛆虫に食われて黒々と溶けていき、地面と同化して消えていったのだろう。
 寂しいとは思わない。むしろ、人知れず自然に見届けられて散っていく様は実に美しい。私も森の奥にある道路の端で倒れたら、あの猫と同じく死んでいくのだろう。消えていった小さなたましいに、わずかな希望を見出した。
 遺灰を海に流すのもいいが、森に撒くのもいい。生きるも死ぬも勝手次第と言わんばかりに、黙する黒い木々に見下ろされて包み込まれてみたい。
               (250509 静かなる森へ)

5/9/2025, 12:38:47 PM

 あなたの夢をかいてくださいと先生に言われたので、
 クーピーでまっ黒にぬった紙を出しました。
 これは夢ではありません、と先生におこられました。
 まっ黒な夢は、よくねむれている良いことなんだよ
 おじいちゃんにそう教えてもらったのに、
 先生にバツをつけられました。
                 (250509 夢を描け)

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