『即興詩人』のように、舟の中で寝転んでみたいものだ。確か、海に通ずる洞窟の中で舟を浮かべていたはず。
天井から滴り落ちる水滴を星々に見立てて、横になりながら眺めていたい。そうして、洞窟の奥へ奥へと向かって行き、入り口の光が徐々にか細くなっていくのを見届けていく。
洞窟の中で舟に流されながら奥へ行く感覚は、どことなく胎内巡りを彷彿とさせる。ちょうど頭を先にして寝転がっているから、このまま産道へと導かれていくだろう。
だが私は天邪鬼だ。もう人間の赤子なんかになりたくない。アヌンチャタごっこはおしまいだ。舟をひっくり返す。私は逆さまになった舟の中に閉じこもった。
塩辛い湿気がこもる暗闇の中、揺れる波間から雫が飛び散っていく。ちゃぷちゃぷと水音が舟の中に響いていった。私の耳の中に、海水が入り込んでいく。海の静寂しか聞こえない。
舟の板の隙間から白い輝きがちらつく。壁を隔てて見る景色は、濾過されたように綺麗だ。そう思った時には、私は水面の下に沈んでいた。もう何も見えない、何も聞こえない。
逆さまの舟は、真っ暗な洞窟の奥へ奥へと流れていった。
(250510 未来への船)
5/11/2025, 1:10:50 PM