はた織

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4/24/2025, 12:31:30 PM

 古書店に入って、店員に挨拶をするべきなのか迷ってしまう。特に、個人経営の古本屋は店主1人で店番をしている。店の中に入れば、嫌でも目が合ってしまう。
 私は躾けのなっていない人間だから、無言で店に入る。しかも、人よりも本と交流したがる本の虫だ。古びた背表紙を向ける本に向かって、「ごきげんよう」と挨拶したい。私の霊感に反応する本はいるだろうかと本棚の間を歩きたいし、長年積み重ねた埃と沈黙を払いたい。
 前世のつながりを人間よりも本に求める性分だ。ページをめくりながら、たましいの巡り逢いをしたい。
 そうは言いつつも、この出逢いを与えてくれたのは古書店の店主だから、彼彼女らに敬意を込めて挨拶をするべきだろう。まあそれでも、生きている人間よりも本の世界の住人と仲良くなりたい。また古本屋に入っても店主に目もくれず、本にしか挨拶しないだろうな。
                 (250424 巡り逢い)

4/23/2025, 1:17:31 PM

 どこへ行けば良いのか分からない私の身体が煩わしいので、いっそのことジャムになって瓶に詰めてしまいたい。
 解体して、更に分解して、もっと崩壊した肉片と内臓と骨を鍋の中に入れて、コトコト煮込むのさ。
 無駄に硬い骨も一年以上煮込めば、光沢帯びる真珠の煌めきになるだろうよ。肉と内臓が全部溶け込んで数十年、砂糖と他人に甘やかされて育った身体だ。これ以上の甘さはいらない。もう十分甘すぎる。熟れすぎた苺よりも赤黒い。
 ドロドロに溶けた私の身体をガラス瓶に詰め込んで、仕上げに髪の毛のラッピングをするのさ。ずっと触りたくなる黒いリボンだ。もう赤いジャムなんかよりも、リボンを触り続ければいい。
 ジャムは、ガラス瓶の中でしかその美味しそうな輝きを保てない。パンに塗れば単なる情報となる。情報しか食べられない現代人になんか食べて欲しくない。ずっと飾ってほしい。
 テーブルの片隅に、いつから置いてあったのだろうと不安になりながらも、100年後の賞味期限を確認して安心すればいい。どうせ100年経つ前に忘れられる。
 そう言えば、あのジャム瓶はどこに行ったと思った時には、テーブルの下に落ちて右往左往している。
 結局、私の身体はジャムになっても、どこへ行けばいいのか分からない。
               (250423 どこへ行こう)

4/22/2025, 12:35:22 PM

 
 I want full of love more than your big love.

 Pour me all the full of love.
                 (250422 big love!)

4/21/2025, 11:12:42 AM

 読書家も極まれば、本の声も読み取れる。耳で声を聞き取るのではない。肌で感じ取ることもあれば、頭に電流が走るような閃きもある。また本から漂う空気を嗅ぎ分けたり、目で追ったりする。
 ただし、本の声を明確に視界でとらえることはできない。すべて感覚だ。何となく本のささやきに導かれて、気がついたら本棚の前に来ていたことが多い。
 本に導かれる感覚は、星の粉を浴びているようで気持ちがいい。あまりにも浴びすぎると鳥肌が立って、前世からの因果関係ではないかと疑ってしまう。
 恐怖心を煽られることが度々あるが、本も一種の生き物だ。未知の生命体であれば、既知の存在でもある。本に怯えながら親しみを覚えるのは当たり前だ。これは、読書家になってしまった者の宿命か、それとも性癖か。
 たかが、文字が書かれた紙に心を奪われた者を呪われた人と称してもいいし、されど、言葉を載せた紙を一生の友とするめでたい人と称えても構わない。こちらとしては、本のささやきが聞こえない人生は死よりも恐ろしくて堪らない。
                 (250421 ささやき)

4/20/2025, 11:16:30 AM

 星なんて汚い石ころではないかと、人はスマートフォンの青い光で照らすだろう。そんな人を星明かりで照らせば、醜く見えるのは当然だ。汚いと言ったやつが何より汚い。
 しかしそういう人間に限って、自身の欠点を見られたくない臆病者である。LEDライトを24時間年中無休に点け続けて、星の光を掻き消していく。頭の中まで汚い生き物に星を駆除され、いつかはレッドリスト入りになる日もそう遠くはない。
 私としては実に困った問題だ。私は、星明かりに身も心も照らされたい。凍てつく冬に磨かれた星の鋭い光に貫かれたい。天の川の泡沫のように浮かぶ星の滴に溺れたい。
 人間なんて醜くて当たり前だ。幾星霜の輝きに清めて貰えばいい。いっそ、流れ星に当たって砕けて熱されて溶けていきたいものよ。そうして、骨と燃えかすとなった塵から、星の如く煌めく私の鮓答が生まれることを星々に願う。
                 (250420 星明かり)

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