街明かり、途方に暮れていたことを思い出す。駅前のネオン、看板の人工照明、マンションのオレンジ色の光。電車に乗って見えたあの輝きが僕にはどうもまぶしく見えた。彼らもどこかで生きている。
駅前で募金をやっていた。
「世界には綺麗な水を飲めない人がいます。十分なご飯を食べられない人がいます。」
必死に訴える若者たち。それを迂回する大人たち。僕は彼らに教えてあげたい。現実は半径5kmにしか存在しないことを。
耳を澄ませば
聞こえるのは泣き声だろうか。叫び声だろうか。
交わらない視線、街明かり、現実。
人生は逃避行だと誰かが言った。
僕らは何か、見ないふりして生きている。
僕はKissを知らない。自分の唇で想像しても、きっとはんぺんみたいな感触なんだろうなと思うだけだ。
僕は他人の温もりを知らない。いつも一人で机の上にいる。ポケットに入れた拳は、腿の温もりしか知らない。
一人が嫌いな訳ではないけど、誰かを抱きしめたいと思うことがある。人間の柔らかさを感じたいと思う時がある。そういう夜は大抵寝付けない。だから僕は歩き出す。
この駅はたくさんの女性が立っている。真冬なのに凍えるカラマツみたいに、誰かを待っている。僕は彼女らを自分に照らし合わせる。そうするとこの惨めさも、寂しさも言外に分かち合えたような気がして、安心して眠ることができる。
こんな事やめたほうがいいのだけれど、僕も死ぬ気で歩いてる。彼女らを灯火にして街明かりをくぐり抜けている。
夜の駅はいつもと違う匂いがする。それは大概香水の匂いで、その甘さと胡散臭さむせそうになる。でも好きな人から漂う匂いならすごく素敵だな、なんて妄想したり。
こんなに寒いのにどうして彼女は立つのだろうか。お金がそんなに欲しいのか。そこに愛はあるんかって聞いてみたい。お金で埋められる寂しさなら僕も喜んで財布を開く。でも、お金で買った愛情は毒のように体を回って、彼女と僕をどこまでも隔てる。それが分かっているから僕は歩く。
こんなに寂しいのに誰かの幸福を思える自分を見直した。だけどお前にそんな資格はないと笑った。そうやって僕は夜を越えている。いつか彼女にお礼を言いたい。でも彼女のKissはきっと冷たいだろうな。
私はあなたを愛しています。たったそれだけなのに、言葉が出てこない。愛しているって伝えたら君はきっと困るだろうし、困惑する。だから僕は言わない。でも君を思うとやっぱり好きだなって思うんだ。恥ずかしいくらいに。
言えたらいいな
僕は僕を否定する。心臓は脈打ち、血は走る。止まるんじゃないぞ。止まるんじゃないぞ。時間が過ぎていく。時間だけは無慈悲に過ぎていく。大人になればなるほどわからないものが増えた。許せないものが増えた。
本を読んだ、物語を書いた。考えて、考えて、考えて、考えた。止まれなくなった、止まらなくなった。僕は僕を否定する。僕は僕を否定する。でもそれでいいんだ。
静かな怒りが、否定だけが静寂の中心にいる。僕はまた机に向かう。自分を許さないために。僕が僕であることを肯定するために。僕はきっと間違っていない。
夢へ!
飛んでいけ。飛んでいけ。
すべてをかなぐり捨てて、明日も今も知らないように、今日死ぬように。今死ぬように。
必死に、必死に、死ねばいい。死ねばいい?
諦めるとか諦めないとかじゃない。やるしかない。進むしかない。使命でも、願いでもない。決定事項だ。
殺せ、殺せ。弱い自分を殺せ。
挫折も苦悩も見ないふりをしろ。知らないフリをしろ。
お前はヒーローだ。主人公だ。
周りがなんだ。数字がなんだ。やる気がなんだ。途方もないからなんだ。やると決めたらやるしかないだろう。
殺せ、殺せ。