田中クン

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人生で一度だけ、泣きたくなるような切実さで言われた「またね」がある。

それは、卒業式が終わり、校門を出たときだった。人の波が途切れ、ふと立ち止まった僕の背中を、誰かがぽんと叩いた。

振り返ると、そこにいたのは中学の頃からの同級生だった。普段はあまり話すことのない相手。でも、同じクラスになったことが何度かあり、行事や授業で隣になったこともあった。

「元気でな」と彼は言った。

僕は「うん」とだけ返した。何を言えばいいのか分からなかった。彼とは特別親しかったわけではない。ただ、それでも、こうしてわざわざ声をかけてくれることが少しだけ嬉しかった。

そのまま別れようとしたとき、彼が少し間を置いてから、まっすぐに僕を見て言った。

「またね」

その声は、不思議と心に残った。

社交辞令でもなく、軽い別れの挨拶でもなく、本当にまたどこかで会えることを願っているような響きだった。

「またね」

僕は驚きながらも、小さく笑って同じ言葉を返した。

それから数年が経った今でも、あの「またね」は僕の心の中にある。

本当にまた会えるかは分からない。それでも、あの時交わした「またね」がある限り、どこかで再び巡り会えるような気がするのだ。

3/31/2025, 4:49:33 PM