「もううんざりよ」
本当にうんざりだった。こうして彼と向かい合って話すことも、彼のために朝食を用意することも。夜な夜な知らない香水の匂いを漂わせて千鳥足で帰ってくる彼。口からはアルコールの臭いがし、いつの間にか纏うようになった加齢臭にムッとしながら、私は彼のカバンを受け取り、肩を抱えてなんとかベッドまで連れて行った。
「お酒を飲むのはいいけど、私の知らないところで飲んでよね。」
彼は何も言わず、曖昧な微笑みを浮かべた。その微笑みには、少年のような無邪気さと疲労が混じっていて、彼も歳をとったんだなと感じさせた。愛情なんかとっくに尽きているはずなのに、私は彼を捨てることができない。
「おいで。」
甘い声で彼が囁く。その声はお腹の底から響くように、毛布に包まれるような安心感をもたらす。細く長い腕、少しくたびれた肌、高く鋭い鼻。そして、目元には微笑みが浮かんでいる。私はやっぱり、どうしようもなく彼が好きなんだと思う。
彼は私を愛していたし、私も彼を愛していた。けれど、彼は私以外の女も愛していた。彼が言うには、みんな平等に愛しているというけれど、それでもやっぱり寂しい。それでも彼を愛してしまうのは、もはや何かの罰なのかもしれない。
彼の腕に包まれると、すべての怒りや悲しみが溶けていってしまう気がする。彼の温もりは、いつも私をだめにしてしまう。私は目を閉じ、彼の鼓動を感じながら、自分の中の矛盾を噛みしめていた。
夜が明け、彼がまたどこかへ出かける。出かける前、いつものように「愛してるよ」と言って。何度も聞いたはずのその言葉なのに、私の心は今でも跳ね上がる。そんな自分にため息をつきながら、そっとコーヒーをテーブルに置いた。
1/15/2025, 12:44:36 AM