相合傘
憧れることもあったけど。
誰かと同じ傘に入るなんてことた、
たぶんないと思う。
落下
考えて、考えて、考えてみて。
結果くだらないな、と思った。
学校の下らないいじめだって、どうでもよかった。
強がりとかではなくて、本当に言いたいヤツには言わせておけ、と思ってる。
「はっ、出来もしないこと出来るって言うなよな」
「……っ」
いわゆるいじめっ子が、いじめられっ子を詰る。
何がどうしてこうなったのか、始まりすら分からないけれど、この3階の、ベランダから落ちてみろ、という事らしい。
3階から落ちたら死ぬんじゃないか。
馬鹿馬鹿しいと思うのと同時に、教室の空気も悪すぎて俺は立ち上がる。
椅子を動かした音で、全員の視線を浴びるが、気にせずにベランダに向かった。
「おいなんだよお前…」
いじめっ子がなんだか急に慌てた声をだした。
ベランダの柵に乗って、下を眺めるとやっぱりすこし高かった。
後ろで「おいばかっ」「危ないよ!」「止めよう」「いや、出来るわけないって」と口々に言うけど別に止まる気もない。
歩くような気分で、地面に向かってダイブした。
少しの落下感。
そして、衝撃。
結論から言えば俺は怪我をした。
割と綺麗に受身をとったけど、少し入院した。
体の心配よりも頭の心配をされた。家族も同様に。
「ごめんね」と謝ってきたのはいじめられっ子である。
「なにが」
「僕のせいだから」
「違う」
「でも、あの時、飛び降りるって話したのは僕なのに」
「俺は好奇心であの日飛んだ。その前の話は知らないし、たぶん俺の頭が可笑しいだけだ」
「でも……」
「思ったよりも滞空時間が短くて残念だった」
考えて、考えて、考えてみた。
入院中までも考えてみた。結果思ったよりも。
「飛び降りは自殺に向いてないな」
残念だった。
いじめられっ子が泣き始めたので、「俺がおかしいんだよ」と俺は笑った。
あいまいな空
綺麗でも、汚いでもない、
鮮やかで、綺麗で、残酷
どこにも行けそうで、行けない
そんな色の空
あじさい
家族と顔を合わせるのも、家に帰るのも面倒。
仕事終わりに軽く食べて、そしていつものバーへ。
ゆったりとした、音楽が流れる店内で、何となくいつも座るカウンター席に向かう。
流れるように注文をして、強めのウイスキーを頼む。
帰りたくないと、そう思う日もある。
けど、帰らなければ妻がきっと激怒するし、娘の冷ややかな目もだいぶキツイ。
少しは優しくして欲しい。
仕事もキツイし、何もいいことがない。
とりあえず酒で誤魔化す日々。俺の癒しは一体どこに消えていったのだろう、と思う。
結婚当初は優しい妻だったのに、どうしてこうも変わってしまったのか。
勢いで二杯目を頼み、これで終わらせて帰ろう、とそう決意した。
していた、んだけど。
バーともなれば知らない人達と楽しく話をすることも、よくある事だった。
同じような境遇の男性のこともあれば、優しい女の人と話すこともあって。
そう、日本人って身内に厳しくても他人には優しいよなって、そう思う。
これっぽっちも、そんなつもりはなかったのに、アルコールの力とストレスは怖いと思う。
気付けばホテルなんかに入ってたりして、お互いに気楽な感じで話せて、そう、とても気楽だった。
頭の中でこれって浮気、じゃなくて不倫になるのかな、と冷静な自分が言うのに何も止まらなかった 。
☆
少しの二日酔いと、家族への罪悪感と、絶対に妻に怒られるのだろうという恐怖が全部一気にやってきて、死にそうな気分で帰路に着いた。
最低な気分で帰った家では特に何事も起きなかった。
明らかに顔色が悪かったのだろう。過去にないほどに妻に心配された。
そして俺は一夜の過ちとして、何も無かったことにした。
それが精神衛生上、いちばん良いと、今でも俺はそう思う。
あじさい
花言葉、浮気。
好き嫌い
「うっま」
貰ったばっかりのクッキーを早々に口にする。
バレンタインという行事は本当に素晴らしい。
義理チョコという食材をあちこちで貰える、素敵な一日だ。
軽い足取りで目的もなく大学構内を歩けば、誰かしらに貰える。
ああ本当に素晴らしきバレンタイン。
俺、絶対に食品メーカーに就職してみせる。
「せんぱーい! トッポお好きですか?」
「トッポはお菓子の中でも大好きだ」
「わぉ、ホントですか! じゃあ、これ、貰ってください!」
「いいの? ありがとう」
ほらまた貰った。にこりと笑えば見知らぬ女子生徒も嬉しそうに笑った。
俺もハッピー、みんなハッピー。
「お前、今日はお菓子ばっかりな」
「バレンタインだからね。パンとかも嬉しいけど、甘いもの大好きだから嬉しいよね」
「俺はいつかお前が誰かに刺されないか心配だよ」
「そんな物騒なことする子、居ないか、ダイジョーブ!」
パンが好き、と言ったらみんながこぞってパンをくれるようになった。
日々の生活の中で食費は常にカツカツだから、奇跡が起こったのだ。
時々お弁当までくれる子もいる。俺はその子を神様だと思っている。
「だいたいなんでお前ばっかモテるんだよ。やっぱ見た目なのか?」
「俺別にモテる訳じゃないよ? あまりにもみんな俺に食べ物くれるから、なんでって聞いたらさ。俺に“餌付け”が出来ると両思いになれるんだってさ」
「……お前と?」
「俺じゃない別の本命と」
友人は真顔で「なんでそんなの広まるんだよ」と言い、「俺は嬉しいけどね〜。でもご利益は無いよね」と俺は笑った。
食べることか好きだ。
好き嫌いはない。
食べ物ならなんでもいい。
昔食べた、ダンボールよりもマシだから。