夏野

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あじさい

家族と顔を合わせるのも、家に帰るのも面倒。
仕事終わりに軽く食べて、そしていつものバーへ。

ゆったりとした、音楽が流れる店内で、何となくいつも座るカウンター席に向かう。
流れるように注文をして、強めのウイスキーを頼む。

帰りたくないと、そう思う日もある。
けど、帰らなければ妻がきっと激怒するし、娘の冷ややかな目もだいぶキツイ。
少しは優しくして欲しい。
仕事もキツイし、何もいいことがない。

とりあえず酒で誤魔化す日々。俺の癒しは一体どこに消えていったのだろう、と思う。
結婚当初は優しい妻だったのに、どうしてこうも変わってしまったのか。

勢いで二杯目を頼み、これで終わらせて帰ろう、とそう決意した。

していた、んだけど。

バーともなれば知らない人達と楽しく話をすることも、よくある事だった。
同じような境遇の男性のこともあれば、優しい女の人と話すこともあって。
そう、日本人って身内に厳しくても他人には優しいよなって、そう思う。
これっぽっちも、そんなつもりはなかったのに、アルコールの力とストレスは怖いと思う。

気付けばホテルなんかに入ってたりして、お互いに気楽な感じで話せて、そう、とても気楽だった。
頭の中でこれって浮気、じゃなくて不倫になるのかな、と冷静な自分が言うのに何も止まらなかった 。



少しの二日酔いと、家族への罪悪感と、絶対に妻に怒られるのだろうという恐怖が全部一気にやってきて、死にそうな気分で帰路に着いた。

最低な気分で帰った家では特に何事も起きなかった。
明らかに顔色が悪かったのだろう。過去にないほどに妻に心配された。

そして俺は一夜の過ちとして、何も無かったことにした。
それが精神衛生上、いちばん良いと、今でも俺はそう思う。


あじさい
花言葉、浮気。

6/13/2024, 4:18:27 PM