夏野

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好き嫌い


「うっま」

貰ったばっかりのクッキーを早々に口にする。
バレンタインという行事は本当に素晴らしい。
義理チョコという食材をあちこちで貰える、素敵な一日だ。
軽い足取りで目的もなく大学構内を歩けば、誰かしらに貰える。
ああ本当に素晴らしきバレンタイン。
俺、絶対に食品メーカーに就職してみせる。

「せんぱーい! トッポお好きですか?」
「トッポはお菓子の中でも大好きだ」
「わぉ、ホントですか! じゃあ、これ、貰ってください!」
「いいの? ありがとう」

ほらまた貰った。にこりと笑えば見知らぬ女子生徒も嬉しそうに笑った。
俺もハッピー、みんなハッピー。

「お前、今日はお菓子ばっかりな」
「バレンタインだからね。パンとかも嬉しいけど、甘いもの大好きだから嬉しいよね」
「俺はいつかお前が誰かに刺されないか心配だよ」
「そんな物騒なことする子、居ないか、ダイジョーブ!」

パンが好き、と言ったらみんながこぞってパンをくれるようになった。
日々の生活の中で食費は常にカツカツだから、奇跡が起こったのだ。
時々お弁当までくれる子もいる。俺はその子を神様だと思っている。

「だいたいなんでお前ばっかモテるんだよ。やっぱ見た目なのか?」
「俺別にモテる訳じゃないよ? あまりにもみんな俺に食べ物くれるから、なんでって聞いたらさ。俺に“餌付け”が出来ると両思いになれるんだってさ」
「……お前と?」
「俺じゃない別の本命と」

友人は真顔で「なんでそんなの広まるんだよ」と言い、「俺は嬉しいけどね〜。でもご利益は無いよね」と俺は笑った。

食べることか好きだ。
好き嫌いはない。
食べ物ならなんでもいい。

昔食べた、ダンボールよりもマシだから。


6/12/2024, 4:56:01 PM