成り行きに任せて各地を旅していた時の話
君に出会ったのはネオンが灯る街だった
たった一晩の出来事だった
君と僕はほんの僅かな時間をとても濃密に過ごした
情熱的にお互いを求め合った
まどろみが心地よくて気付けば日が高い位置にいた
君の姿はどこにもいない
やはり一夜だけの関係だった
部屋を出る前にもう一度見渡した
テーブルの下にひらりと揺れる何かがあった
拾い上げれば白いメモ紙に何か一言書いてある
この国の言語なのだろう
僕にはあいにく読めなかった
捨てるのも忍びなくポケットに突っ込んだ
そのうちその紙のことすら忘れて
気がつけば何十年と経っていた
あの言葉はいったい何だったのだろう
それはテレビの異国のアーティストが教えてくれた
「バイバイ」
『隠された手紙』『バイバイ』『旅の途中』
人生約三十年。
様々なことを見て、聞いて、やってみて、知ってみて。
物事を通して自分がどういう人となりなのか、全て理解できている。
いや、理解できていたはずなのだ。
そのはずで間違いないんだけど、新しい物事を始めたり、環境が変化すると自分の新しい一面を思い知るのだ。
まだ知らない自分の一面なんて分かりたくなかった。
私が手先が不器用で足元が鈍臭い人間だったなんて。
もっとスマートに人生を歩んでいると思っていたのに、チョコを降らすような人間だったなんて未だに信じたくない。
もうこれ以上の面白とんでもドジは踏みたくない。
『まだ知らない君』
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ひんやりとした空気を気持ち良いと感じるか
ジメジメした感触を気持ち悪いと感じるか
暗がりの空間に自ら飛び込むか
境界線から引き込まれるか
どちら側かを気にする私は日陰者
『日陰』
モコモコしたダウンコート
レギンスの上からコーデュロイのズボンを重ね着して
フワフワした履き心地のスノーブーツ
首元にはピンクの毛糸のマフラー
ミトンの手ぶくろも同じピンク色
そして新たに耳元までカバーされる
白いポンポンが頭頂部と左右に垂れ下がった
ピンクのニット帽が仲間入り
「雪だぁ!」
一面真っ白の世界で眩しいのは
降り積もった雪か はしゃぐ我が子か
『帽子かぶって』
あのすみません
その声で後ろを振り返る
自分よりも随分年下な女の子がいた
清潔感のある制服姿で
肩から下げたスクールバッグの肩紐を握りしめ
顔を真っ赤にして自分を見ている
街中のこのシチュエーション
何もない
何も起こらないと言い聞かせながら
自分の心臓が跳ね上がる
はい
唾を飲み込み返事をした
目が合えば女の子が肩で息を吸った
ズボンのお尻が割れてます
女の子はこちらに一礼をして
パタパタと走り去っていった
自分は手にした通勤カバンを
気持ち後ろ気味に持ち直して
駅のトイレまで早歩きした
『小さな勇気』
「わぁ!」
驚いたり、戸惑ったり、笑えたり。
相手の反応が面白くてついつい繰り返してしまう。
声を掛ける前、今回はどんな反応するんだろうと、ワクワクドキドキするのだ。
あ、今日はまだやったことない友達にやってみよう。
フリフリした洋服を身に纏う友達はとても可憐な女の子だ。きっと可愛い反応に違いない。
背後からそろり、そろりと近づいて。
「わぁ!」
「ぎゃーー!! ビックリするじゃねぇか何しやがるんだこの野郎ぶっ飛ばすぞゴラァ!!」
容姿とは相反する男勝りな口調と、その気迫に思わず腰を抜かした。
『終わらない物語』『わぁ!』