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12/20/2024, 5:03:45 AM

 三人で一つの机を囲ってお弁当を広げたはずなのに、目の前の二人にしか分からない話題で盛り上がってる。私はいつもお喋りに夢中な二人より先に食べ終わる。
 今日も食べ終わったから、本当は二人と分けようとしていたお菓子をチビチビ食べ始めた。
 二人が喜ぶと思ったんだけど。

 私がここにいる意味、ある?


『寂しさ』

12/19/2024, 1:41:30 AM

「肉まん」
「ホットドリンク」
「ポットパイ」
「グラコロ」
「おでん」
「ラーメン」
「鍋」
「しゃぶしゃぶ」
「すき焼き」

「矢野は!?」

「こたつでアイス」

「それだ!」
「アイス買って帰ろうぜ」
「サーティーワンどこだっけ」
「セブンティーンでよくね?」
「あ?」
「え?」
「間取ってコンビニでダッツ買おう」



「部活帰りに他人様の家のこたつを訪ねるにしては人数多すぎない?」

『冬は一緒に』

12/18/2024, 8:49:10 AM

「あ、屋良くん。芋食べる?」

 予鈴がなって席に着くと、前の席の青池さんが横座りになり、俺に差し出してきた。差し出されたのは、マックのフライドポテトだ。

「芋?」
「うん、芋」

 聞き返した俺を気に留めず、青池さんはフライドポテトの入ったパッケージから一本摘んで口に運んだ。

「どうしたの、コレ」
「さっき買ってきた」
「中抜け禁止なのに」
「だから共犯者増やしてる」

 青池さんはニヤリと笑って、もう一度俺にポテトを差し出してきた。俺は観念して、そこから一本摘んで食べた。

「遠慮なく、こう、ガッと」
「無茶言うなよ。昼食ったばっかだし」

 だって本鈴までに食べなきゃ。
 そう言って青池さんは、しなびた細長いポテトを三本摘んで、一気に食べた。頬が片方だけハムスターのように丸く膨らんでいる。

「いや匂いでバレるだろ」
「あーね、確かに。マックの芋って匂い強烈だもんね」
「あのさ、さっきからその芋って何?」

 いよいよ気になって問えば、青池さんはこちらを見てキョトンとした。

「芋?」
「そう、芋」
「だって芋じゃん」
「だから何でフライドポテトを芋って呼んでるの?」

 青池さんはだって、と口を開いた。

「だって、芋でできてるじゃん」
「え、まあ、ジャガイモだね」
「そう、だから芋」

 ウチの地元じゃポテチも芋だよ。
 さも当然のように答えた青池さんに、俺は首を傾げた。

「青池さん南中だったよね」
「そうだけど。屋良くんは?」
「俺西中なんだけど。最寄りの駅って一緒だよね?」

 青池さんはまたニヤリと笑って言った。

「北口と東口で違うんだよ。我々北の民はポテトもポテチもスイートポテトも芋なの」
「そんな近場で方言あるのかよ」
「もう。ああ言えばこう言うなぁ屋良くんは。原材料芋なんだから芋でいいんだよ」

 だいぶ減ったポテトのパッケージを、青池さんは俺の机の上に置いた。罪を被せる気かと慌てて手に取り、青池さんの前に突き出した。

「いいよ。私お腹いっぱいだから残りあげる」
「そういう問題じゃねえよ。中身はもらうけど捨てるならその紙袋にまとめよう」
「一緒に捨ててくれるの?」
「俺があ?」

 青池さんの掴みどころのない返しにイラッとしていると、教室の前方から咳払いが聞こえた。二人で恐る恐る顔を向けると、次の授業担当の先生がこちらを睨んでいた。

「担任の先生にはしっかり伝えておくので」

 俺たちは身を縮こませて、いそいそと教科書を取り出した。



『とりとめもない話』

12/17/2024, 12:51:55 AM

 お見舞いに来てくれた君を対面せずに帰した。
 風を移したら大変だし、申し訳ないから。
 ぐずぐずと布団に潜って、仕方ないと諦めた。

 夢にうなされて目が覚めた。
 全身が汗でびっちょりと湿っていて気持ち悪い。
 着替えなきゃと思いつつ、視界に入ったスマホを取った。
 暗がりの中、一人で過ごす心細さに耐えられなかった。

「待ってたよ、電話くるの」
「寂しい」
「だろうね。行くよ」
「いいよ、もう遅い」
「タクシーとばすし」
「寝汗でグチャグチャだから会いたくない」
「それで?」
「声聞いているだけで十分」
「それで?」

 君の優しい声に、私は縋りついていた。

「やっぱり会いたい」
「すぐ行く。あ、電話は繋いだままね」

 電話越しにガサガサと音がする。多分慌てて身支度してくれているに違いない。
 風邪を移したら申し訳ない。君にこんな辛い思いもさせたくない。だから来てほしくない。
 でも会いたい。

「好き」

 顔も頭も体もぐちゃぐちゃで、君に見せられたものじゃないけど。どこまでも優しい君に全て委ねてしまいたいと思った。



『風邪』

12/16/2024, 3:21:23 AM

「明日休校になりますように」
 テレビの天気予報と睨めっこして両手を合わせた。パンと大きな音が鳴った方が願いが届く気がして何度も両手を強く打ち付けた。
「明日はみぞれだから、電車動くよ」
 背中越しに母の迷惑そうな声が聞こえた。私はお構いなしにダメ押しでパンと鳴らした。

 翌朝、いつもより早く起きて部屋のカーテンを開けた。外は眩しいくらいに白く輝いていた。
「雪だ!」
 興奮のまま窓を開けて、現実を目の当たりにした。私は渋々部屋を後にした。

 休校の連絡はどこからも届かなかった。


『雪を待つ』

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