「あ、屋良くん。芋食べる?」
予鈴がなって席に着くと、前の席の青池さんが横座りになり、俺に差し出してきた。差し出されたのは、マックのフライドポテトだ。
「芋?」
「うん、芋」
聞き返した俺を気に留めず、青池さんはフライドポテトの入ったパッケージから一本摘んで口に運んだ。
「どうしたの、コレ」
「さっき買ってきた」
「中抜け禁止なのに」
「だから共犯者増やしてる」
青池さんはニヤリと笑って、もう一度俺にポテトを差し出してきた。俺は観念して、そこから一本摘んで食べた。
「遠慮なく、こう、ガッと」
「無茶言うなよ。昼食ったばっかだし」
だって本鈴までに食べなきゃ。
そう言って青池さんは、しなびた細長いポテトを三本摘んで、一気に食べた。頬が片方だけハムスターのように丸く膨らんでいる。
「いや匂いでバレるだろ」
「あーね、確かに。マックの芋って匂い強烈だもんね」
「あのさ、さっきからその芋って何?」
いよいよ気になって問えば、青池さんはこちらを見てキョトンとした。
「芋?」
「そう、芋」
「だって芋じゃん」
「だから何でフライドポテトを芋って呼んでるの?」
青池さんはだって、と口を開いた。
「だって、芋でできてるじゃん」
「え、まあ、ジャガイモだね」
「そう、だから芋」
ウチの地元じゃポテチも芋だよ。
さも当然のように答えた青池さんに、俺は首を傾げた。
「青池さん南中だったよね」
「そうだけど。屋良くんは?」
「俺西中なんだけど。最寄りの駅って一緒だよね?」
青池さんはまたニヤリと笑って言った。
「北口と東口で違うんだよ。我々北の民はポテトもポテチもスイートポテトも芋なの」
「そんな近場で方言あるのかよ」
「もう。ああ言えばこう言うなぁ屋良くんは。原材料芋なんだから芋でいいんだよ」
だいぶ減ったポテトのパッケージを、青池さんは俺の机の上に置いた。罪を被せる気かと慌てて手に取り、青池さんの前に突き出した。
「いいよ。私お腹いっぱいだから残りあげる」
「そういう問題じゃねえよ。中身はもらうけど捨てるならその紙袋にまとめよう」
「一緒に捨ててくれるの?」
「俺があ?」
青池さんの掴みどころのない返しにイラッとしていると、教室の前方から咳払いが聞こえた。二人で恐る恐る顔を向けると、次の授業担当の先生がこちらを睨んでいた。
「担任の先生にはしっかり伝えておくので」
俺たちは身を縮こませて、いそいそと教科書を取り出した。
『とりとめもない話』
12/18/2024, 8:49:10 AM